もくじ
- 葉酸とは?
- 葉酸の供給源になる食品
- 葉酸の特性 (単位・化学的安定性)
- 葉酸の吸収や働き
- 葉酸不足の問題
- 葉酸過剰摂取のリスク
- 葉酸はどのぐらい摂取すればよいの?
- 葉酸の摂取状況
- 栄養機能食品としての関連情報
- 関連情報
葉酸とは?
葉酸は、水溶性ビタミンでビタミンB群の一種です。ほうれん草の抽出物から発見され、ラテン語の「葉」を意味する「folium」からFolateと命名されました (1) 。生体内では、DNAやRNAの合成やアミノ酸の代謝、タンパク質の合成などに関与し、細胞の増殖と深い関係があります (1) 。以前は、ビタミンM、ビタミンBcと呼ばれていたこともあります (2) 。その名称と由来から植物性食品だけに含まれているように思われがちですが、動物性食品であるレバーなどにも多く含まれています (3) (4) 。
食品中の葉酸 (食事性葉酸) は、ほとんどが「ポリグルタミン酸型」 (複数のグルタミン酸が結合した形) で存在し、摂取すると消化管の消化酵素によって、「モノグルタミン酸型」 (グルタミン酸が一つ結合した形) となった後、小腸の上皮細胞から吸収されます (5) 。一方、加工食品やサプリメントなどに添加されている葉酸は最初から「モノグルタミン酸型」として合成された葉酸 (化学名:プテロイルモノグルタミン酸) です (5) (6) 。そのため食事性葉酸の生物学的利用能は低く、2020年度日本人の食事摂取基準ではプテロイルモノグルタミン酸の50%としています (5) 。ただし、消化過程は食品ごとに異なり、同時に摂取する他の食品によっても影響を受けることから、食事性葉酸の生物学的利用能を正確に見積もるのは困難とされています (5) 。
葉酸の供給源になる食品
食品中の葉酸含有量は以下の通りです (3) 。
植物性食品
食品名 | 1食あたり の重量(g) |
葉酸(μg) | |
1食あたり | 100gあたり | ||
玉露(浸出液) | 150 | 225 | 150 |
なばな (ゆで) | 50 | 120 | 240 |
とうもろこし (電子レンジ) | 100 | 97 | 97 |
えだまめ (ゆで) | 30 | 78 | 260 |
ほうれんそう (ゆで) | 80 | 88 | 110 |
ブロッコリー (電子レンジ) | 50 | 80 | 160 |
グリーンアスパラ (ゆで) | 40 | 72 | 180 |
いちご | 80 | 72 | 90 |
そらまめ (ゆで) | 60 | 72 | 120 |
焼きのり | 3 | 57 | 1,900 |
豆乳 | 200 | 56 | 28 |
青汁(ケール) | 3 | 25 | 820 |
(「日本食品標準成分表2020年版 (八訂)」のデータより引用)
動物性食品
食品名 | 1食あたり の重量(g) |
葉酸(μg) | |
1食あたり | 100gあたり | ||
鶏レバー (生) | 40 | 520 | 1,300 |
牛レバー (生) | 40 | 400 | 1,000 |
豚レバー (生) | 40 | 324 | 810 |
フォアグラ (ゆで) | 40 | 88 | 220 |
生うに | 20 | 72 | 360 |
ほたてがい貝柱(生) | 50 | 31 | 61 |
鶏卵 卵黄 (ゆで) | 20 | 28 | 140 |
かき(生) | 60 | 23 | 39 |
(「日本食品標準成分表2020年版 (八訂)」のデータより引用)
葉酸の特性 (単位・化学的安定性)
葉酸は水溶性のビタミンで、酸やアルカリには溶けますが、純水やエタノールにはほとんど溶けず、アセトン、エーテル、クロロホルム、ベンゼンには溶けません。また、光に対して不安定です (2) (7) 。
葉酸の吸収や働き
食品中の葉酸の多くは、ポリグルタミン酸型として糖やタンパク質と結合した状態で存在しています (5) 。ポリグルタミン酸型葉酸は、食品の調理や加工、胃酸環境下において糖やタンパク質がはずれ遊離します (5) 。遊離したポリグルタミン酸型葉酸は、小腸粘膜にある酵素によってモノグルタミン酸型葉酸に分解されてから小腸細胞内へ吸収され、小腸膜上皮細胞内で酵素によって5-メチルテトラヒドロ葉酸に変換されます (8) 。その後、門脈を経由して肝臓へ輸送されます (1) 。肝臓には、全身の約50%の葉酸が蓄積されます (1) 。また、蓄積された葉酸は、再び変換されて胆汁へ移行し、これが消化管から再吸収され、組織に供給されます (腸肝循環) (9) 。葉酸の代謝は以下の通りです (1) (6) (8) (9) (10) 。
葉酸不足の問題
葉酸不足はどのようにして起こるの?
食事からの摂取が不足したときや、腸からの吸収不良時に欠乏症が起こることがあります (10) 。
葉酸が不足すると、どのような症状が起こるの?
葉酸は、動脈硬化の危険因子であるホモシステインをメチオニンに戻すのに必要とされるため、不足するとホモシステインが血中に蓄積し、高ホモシステイン血症となります (10) 。そのほか、細胞分裂が抑制され、造血機能が異常をきたし、巨赤芽球性貧血、神経障害や腸機能障害などが起こります (5) 。また、胎児の神経管形成期である受胎前後から妊娠初期までの間に、母体が葉酸 (プテロイルモノグルタミン酸) を摂取すると、胎児の神経管閉鎖障害のリスクが低減されることが報告されています (5) 。
葉酸過剰摂取のリスク
食事性葉酸の過剰摂取による健康障害は報告されていません。プロテイルモノグルタミン酸の場合、1日あたり5 mg以上の摂取で神経症状が顕著になることが知られています (5) 。また、ビタミンB12欠乏症の診断を困難にするなどのことから、プロテイルモノグルタミン酸については、食事摂取基準でも上限量が設けられています (5) (11) 。
葉酸はどのぐらい摂取すればよいの?
各年齢別の葉酸の食事摂取基準 (日本人の食事摂取基準2020年版) は以下の通りです (5)。
<葉酸の食事摂取基準 (μg/日) 1 >
性別 | 男性 | 女性 | ||||
年齢等 | 推奨量 (RDA) |
目安量 (AI) |
耐容 上限量2 (UL) |
推奨量 (RDA) |
目安量 (AI) |
耐容 上限量2 (UL) |
0~5 (月) | – | 40 | – | – | 40 | – |
6~11 (月) | – | 60 | – | – | 60 | – |
1~2 (歳) | 90 | – | 200 | 90 | – | 200 |
3~5 (歳) | 110 | – | 300 | 110 | – | 300 |
6~7 (歳) | 140 | – | 400 | 140 | – | 400 |
8~9 (歳) | 160 | – | 500 | 160 | – | 500 |
10~11 (歳) | 190 | – | 700 | 190 | – | 700 |
12~14 (歳) | 240 | – | 900 | 240 | – | 900 |
15~17 (歳) | 240 | – | 900 | 240 | – | 900 |
18~29 (歳) | 240 | – | 900 | 240 | – | 900 |
30~49 (歳) | 240 | – | 1,000 | 240 | – | 1,000 |
50~64 (歳) | 240 | – | 1,000 | 240 | – | 1,000 |
65~74 (歳) | 240 | – | 900 | 240 | – | 900 |
75以上 (歳) | 240 | – | 900 | 240 | – | 900 |
妊婦 (付加量)3,4 | +240 | – | – | |||
授乳婦 (付加量) | +100 | – | – |
推奨量 (RDA,recommended dietary allowance)
ある性・年齢階級に属する人々のほとんど(97~98%)が1日の必要量を充たすと推定される1日の摂取量。
目安量 (AI,Adequate intake)
ある性・年齢階級に属する人々が、ある一定の栄養状態を維持するのに十分な量。
(特定の集団において不足状態を示す人がほとんど観察されない量)
耐容上限量 (UL,tolerable upper intake level)
ある性・年齢階級に属するほとんど全ての人々が、過剰摂取による健康障害を起こすことがないとみなされる習慣的な摂取量の上限。
1:プテロイルモノグルタミン酸 (分子量=441.40) の重量として示した。
2:通常の食品以外の食品に含まれる葉酸 (狭義の葉酸) に適用する。
3:妊娠を計画している女性、妊娠の可能性がある女性及び妊娠初期の妊婦は、胎児の神経管閉鎖障害のリスク低減のために、通常の食品以外の食品に含まれる葉酸 (狭義の葉酸) を400μg/日摂取することが望まれる。
4:付加量は、中期及び後期にのみ設定した。
補足
食事摂取基準の脚注3に示されている「狭義の葉酸」とは、サプリメントや食品中に強化される葉酸を指します。なお、胎児の神経管閉鎖障害の発症および再発を予防するための葉酸400μg/日付加は妊娠の1ヶ月以上前から妊娠3ヶ月までの間に摂ることが望ましいとされています。また、葉酸のサプリメント又は葉酸が強化された食品から葉酸(狭義の葉酸)を十分に摂取しているからといって食事性葉酸を含む食品を摂取しなくてよいという意味ではありません (5) 。
妊産婦の葉酸摂取に関する基準の詳細については、こちらの資料を参照してください。
妊娠中の葉酸摂取についての解説は、「妊娠中のサプリメントの利用について」をご参照ください。
葉酸の摂取状況
2019 (令和元) 年の国民健康・栄養調査では男性で平均295μg/日、女性で平均283μg/日摂取しており、男女とも推奨量を満たしています (12) 。
栄養機能食品としての関連情報
葉酸は基準値を満たした場合に栄養機能食品として表示することができます。
- 下限値:72μg、上限値:200μg
- 栄養機能表示
「葉酸は、赤血球の形成を助ける栄養素です。」
「葉酸は、胎児の正常な発育に寄与する栄養素です。」 - 注意喚起
「本品は、多量摂取により疾病が治癒したり、より健康が増進するものではありません。1日の摂取目安量を守ってください。」
「葉酸は、胎児の正常な発育に寄与する栄養素ですが、多量摂取により胎児の発育が良くなるものではありません。」
栄養機能食品の表示に関する基準の詳細についてはこちらの資料をご参照ください。
関連情報
- 葉酸の有効性について、個々の研究結果は「素材情報データベース<有効性情報>【葉酸】」をご覧下さい。
- ビタミンについての解説:一覧
- ミネラルについての解説:一覧
参考文献
(1) 栄養学と食事療法大事典:ガイアブックス
(2) 生化学辞典 第4版:東京化学同人
(3) 日本食品標準成分表2020年版 (八訂)
(4) オックスフォード食品・栄養学辞典:朝倉書店
(5) 日本人の食事摂取基準 2020年版
(6) 専門領域の最新情報 最新栄養学:建帛社
(7) 日本薬局方解説書:廣川書店
(8) ビタミン研究のブレークスルー 日本ビタミン学会編
(9) 薬理書 第9版:廣川書店
(10) ヒューマン・ニュートリション 第10版:医歯薬出版
(11) ビタミン総合辞典:朝倉書店
(12) 令和元年 国民健康・栄養調査報告