もくじ
ビタミンAとは?
ビタミンA (レチノール)は水にとけにくく油にとけやすい脂溶性ビタミンの1つです。おもに動物性食品に含まれ、体内ではレチノール、レチナール、レチノイン酸といった3種の形で作用します。ビタミンAは目の正常な機能の維持、皮膚や粘膜の正常保持、成長および分化に関与しているため、不足すると夜盲症、皮膚や粘膜の乾燥、成長障害、胎児の奇形などを引き起こすおそれがあります (1) 。ビタミンAは、レチノールとして食品から摂取する以外に、プロビタミンA (ビタミンAの前駆体) としても摂取されます。
プロビタミンAについて
プロビタミンAは生体内でビタミンA効力を示す物質に変換されるものの総称です。おもに小腸で変換されます。植物性食品に含まれている赤や黄色の色素であるカロテノイドがよく知られています。プロビタミンAカロテノイドは約50種類程度で、中でもβ-カロテンは、他のカロテノイドに比べて効率よくレチノールに変換されます (1) 。また、β-カロテンはプロビタミンAとしての働き以外に抗酸化作用を持っており、β-カロテンの吸収を高めるには、加熱料理が適していることが知られています (2) (3) (4) 。
おもなプロビタミンA
- α-カロテン
- β-カロテン
- γ-カロテン
- β-クリプトキサンチン
食品中のビタミンAや一日に摂取するビタミンAの基準値は、体内でのプロビタミンAの変換効率を考慮したレチノール活性当量 (μgRAE) という単位で表され、以下の式によって求められます。
レチノール活性当量 (μgRAE) =レチノール (μg) +β-カロテン (μg) ×1/12+α-カロテン (μg) ×1/24+β-クリプトキサンチン (μg) ×1/24+その他のプロビタミンAカロテノイド (μg) ×1/24
μgRAEは以前までは、ビタミンA効力 (国際単位:IU) で表されていました。サプリメントや強化食品などに添加されるビタミンAの場合、IUからμgRAEへ換算するときはIU×0.3で計算することができます (5) 。
ビタミンAの不足と欠乏症
一般に、よほど長期にわたってビタミンAを含まない食事に偏らないかぎり、不足する危険性は低いようです (1) 。しかし、不足した場合の一番の問題は視覚障害です。ビタミンAが不足すると目の角膜や粘膜がダメージを受け、症状が悪化すると視力が落ち、失明する場合もあります (1) 。発展途上国では、多くの子どもがビタミンA不足により失明しています (1) 。また、過度のアルコール摂取は、貯蔵されているビタミンAを消耗します。比較的軽微な症状としては、夜盲症や免疫機能の低下などがあります。
ビタミンAの過剰摂取と過剰症
ビタミンAは脂溶性のため、とりすぎると体内に蓄積され、さまざまな健康障害を引き起こすおそれがあります。しかし、β-カロテンなどのプロビタミンAの場合、体内でビタミンAが不足すると必要量だけがビタミンAに変換され、変換されないβ-カロテンは脂肪組織に蓄えられるか、または排泄されます。そのため、通常の食事から摂取するぶんには、多量に摂取した際に生じる柑皮症を除き、プロビタミンAとしての過剰症は知られていません。一方で、サプリメントからβ-カロテンを大量に摂取した場合には有害な作用も報告されているため避けた方が良いようです。
成人が過剰摂取した場合、短期間では吐き気、頭痛、めまい、目のかすみなどが起こります (1) (6)。長期間では中枢神経系への影響、肝臓の異常、骨や皮膚の変化が起こります。子どもが過剰摂取した場合は、長期間では頭蓋内や骨格の異常が見られます (1) 。また、妊婦では胎児の奇形が知られています。
ビタミンAの摂取状況と摂取基準
2019 (令和元) 年の国民健康・栄養調査では、男性では平均552μgRAE/日、女性では平均518μgRAE/日摂取していました (7) 。
『日本人の食事摂取基準』では、ビタミンAについて推奨量(1歳以上)、目安量 (1歳未満) 、耐容上限量が示されています。各年齢別のビタミンAの食事摂取基準 (『日本人の食事摂取基準 2020 年版』) は以下の通りです。
ビタミンAの食事摂取基準 (μgRAE/日) 1
性別 | 男性 | 女性 | ||||
年齢等 | 推奨量2 (RDA) |
目安量3 (AI) |
耐容 上限量3 (UL) |
推奨量2 (RDA) |
目安量3 (AI) |
耐容 上限量3 (UL) |
0~5 (月) | – | 300 | 600 | – | 300 | 600 |
6~11 (月) | – | 400 | 600 | – | 400 | 600 |
1~2 (歳) | 400 | – | 600 | 350 | – | 600 |
3~5 (歳) | 450 | – | 700 | 500 | – | 850 |
6~7 (歳) | 400 | – | 950 | 400 | – | 1,200 |
8~9 (歳) | 500 | – | 1,200 | 500 | – | 1,500 |
10~11 (歳) | 600 | – | 1,500 | 600 | – | 1,900 |
12~14 (歳) | 800 | – | 2,100 | 700 | – | 2,500 |
15~17 (歳) | 900 | – | 2,500 | 650 | – | 2,800 |
18~29 (歳) | 850 | – | 2,700 | 650 | – | 2,700 |
30~49 (歳) | 900 | – | 2,700 | 700 | – | 2,700 |
50~64 (歳) | 900 | – | 2,700 | 700 | – | 2,700 |
65~74 (歳) | 850 | – | 2,700 | 700 | – | 2,700 |
75以上 (歳) | 800 | – | 2,700 | 650 | – | 2,700 |
妊婦 (付加量) 初期・中期 後期 |
||||||
+0 +80 |
– – |
– – |
||||
授乳婦 (付加量) | +450 | – | – |
推奨量 (RDA,recommended dietary allowance)
ある性・年齢階級に属する人々のほとんど (97~98%) が1日の必要量を充たすと推定される1日の摂取量。
目安量 (AI,adequate intake)
ある性・年齢階級に属する人々が、ある一定の栄養状態を維持するのに十分な量。
(特定の集団において不足状態を示す人がほとんど観察されない量)
耐容上限量 (UL,tolerable upper intake level)
ある性・年齢階級に属するほとんど全ての人々が、過剰摂取による健康障害を起こすことがないとみなされる習慣的な摂取量の上限。
1:レチノール活性当量 (μgRAE)
2:プロビタミンAカロテノイドを含む。
3:プロビタミンAカロテノイドを含まない。
ビタミンAを多く含む食品
ビタミンA (レチノール) は動物性食品 (とくに肝臓や卵) に多く、プロビタミンA のカロテノイドは植物性食品 (とくに濃い色の野菜 (緑黄色野菜) や果物) に多く含まれています (8) 。
植物性食品
食品名 | 1食あたり の重量(g) |
ビタミンA(μgRAE) | |
1食あたり | 100gあたり | ||
にんじんジュース | 200 | 740 | 370 |
ほうれん草 (ゆで) | 80 | 360 | 450 |
西洋かぼちゃ (ゆで) | 100 | 330 | 330 |
春菊 (ゆで) | 50 | 220 | 440 |
小松菜 (ゆで) | 80 | 208 | 260 |
にんじん (皮なし、ゆで) | 20 | 146 | 730 |
すいか (赤肉種) | 200 | 138 | 69 |
にら (油炒め) | 30 | 114 | 380 |
みかん | 100 | 84 | 84 |
味付けのり | 3 | 81 | 2,700 |
(「日本食品標準成分表2020年版 (八訂)」のデータより引用)
動物性食品
食品名 | 1食あたり の重量(g) |
ビタミンA(μgRAE) | |
1食あたり | 100gあたり | ||
鶏レバー | 40 | 5,600 | 14,000 |
豚レバー | 40 | 5,200 | 13,000 |
うなぎ (かば焼き) | 80 | 1,200 | 1,500 |
ぎんだら(水煮) | 70 | 1,260 | 1,800 |
ほたるいか (ゆで) | 30 | 570 | 1,900 |
くろまぐろ 赤身 | 70 | 588 | 840 |
くろまぐろ 脂身 | 50 | 135 | 270 |
鶏卵 卵黄 (ゆで) | 20 | 104 | 520 |
鶏卵 全卵 (ゆで) | 55 | 94 | 170 |
アイスクリーム(高脂肪) | 90 | 90 | 100 |
※くろまぐろ 別名 本まぐろ
(「日本食品標準成分表2020年版 (八訂)」のデータより引用)
栄養機能食品としての関連情報
ビタミンAは基準値を満たした場合に栄養機能食品として表示することができます。
- 下限値:231μg、上限値:600μg
- 栄養機能表示
「ビタミンAは、夜間の視力の維持を助ける栄養素です。」
「ビタミンAは、皮膚や粘膜の健康維持を助ける栄養素です。」 - 注意喚起表示
「本品は、多量摂取により疾病が治癒したり、より健康が増進するものではありません。1日の摂取目安量を守ってください。」
「妊娠3か月以内又は妊娠を希望する女性は過剰摂取にならないように注意してください。」
栄養機能食品の表示に関する基準の詳細についてはこちらの資料をご参照ください。
関連情報
- ビタミンAはがんのリスクの軽減などの効果が期待されていますが、個々の研究結果については「素材情報データベース<有効性情報>【ビタミンA (レチノール) 】」をご覧ください。
- ビタミンについての解説:一覧
- ミネラルについての解説:一覧
参考文献
(1) ビタミン総合事典:朝倉書店
(2) コツと化学の調理事典(第3版):医歯薬出版
(3)(PMID:9209178) Am J Clin Nutr 1997;66(1);116-22.
(4) (PMID:10801917) J Nutr 2000;130(5);1189-96.
(5)U.S. Food and Drug Administration 「Converting Units of Measure for Folate, Niacin, and Vitamins A, D, and E on the Nutrition and Supplement Facts Labels: Guidance for Industry」
(6) 日本人の食事摂取基準 2020年版
(7) 令和元年 国民健康・栄養調査報告
(8) 日本食品標準成分表2020年版 (八訂)