イソフラボンは,大豆に0.2-0.4%程度含まれている天然の成分である。日常的に摂取する食品としては大豆製品からの由来に限定されているが,極めて長い食経験のある物質である。大豆イソフラボンは,3種類のアグリコン(ダイゼイン,ゲニステイン,グリシテイン)とそれらの配糖体であるダイズイン,ゲニスチン,グリシチン,およびそれら配糖体のグルコースの6位の水酸基がマロニル化あるいはアセチル化された計12種類が存在している。大豆中ではほとんどが配糖体として存在している。
大豆イソフラボンには、骨のカルシウムの溶出(骨吸収)を抑える働きがあるため,骨の健康維持に効果がある。大豆イソフラボンは,弱い女性ホルモン様作用を有しており、エストロゲンレセプターを介して,特に女性ホルモンの不足時(更年期女性等)にみられる骨吸収の亢進を抑制する。
(財)日本健康・栄養食品協会、大豆イソフラボン加工食品部会にて設定された方法(1999年 高速クロマトグラフィー(HPLC)法)
1)食経験 古来より日本をはじめとするアジア各国において,大豆食品は一般に広く利用されてきた。大豆のイソフラボンは,加工工程を経た豆腐,納豆,煮豆,味噌などの大豆食品に含まれており,充分な食経験があるといえる(1)。 2)閉経前女性 日本人の若年女性(n=60、平均年齢26歳)に豆乳400ml(大豆イソフラボン109mg含有)を月経2周期にわたって毎日摂取させた結果,月経周期が延長する傾向がみられたが(30.1→32.1日),統計的な有意差はなく正常範囲内であった(2)。 3)閉経女性 閉経した女性(n=18、平均年齢57歳)に濃度の異なる3種類の大豆粉(イソフラボン濃度;対照群0.11mg/kg/day、低濃度摂取群:1.0mg/kg/day、高濃度摂取群:2.0mg/kg/day)を93日間摂取させた際に、高濃度摂取群でエストロゲン硫酸体の有意な減少およびSHBGの有意な上昇を認めているが、血中ホルモンにはほとんど影響せず、子宮内膜生検でもイソフラボン摂取による影響は認められない(3)。 4)男性について 日本人男性(n=10、平均年齢36歳)に868mg/dayの用量の大豆イソフラボンを3週間連続摂取させても、血液や尿の成分及び性ホルモン濃度への影響は特に認められていない(4)。 5)乳幼児について すでに米国では60年以上にわたり乳幼児用のミルクに大豆が用いられているが(製品中でイソフラボン量214-267μg/g、飲料調整時25-30μg/ml、摂取量で5-12mg/kg/day)、これまでに母乳や牛乳を原料とした人工乳で育てられた子どもと比較して成長や発達に差が認められたという報告はない(5)。
(1) 戸田ら,FFI J., 172, 83-88 (1997) (2) Nagata C et al., J.Nationa. Cancer Inst., 90,1830-1835 (1998) (3) Duncan AM et al., J. Clin. Endocrinol. Metab., 84, 3479-3484 (1999) (4) 福井寛 et al., 健康・栄養食品研究., 2,1-9 (1999) (5) Murphy PA et al., J.Agric. Food Chem., 45, 4635-4638(1997)
1)変異原生試験 Ames試験により、変異原性陰性を有しない(陰性)と判別された。検定菌Salmonella typhimurium TA100, TA1535, TA98, TA1537 及びE.coli WP2 uvrA 試験条件:S9mix無添加および添加条件での用量設定試験および本試験(1)。 2)急性毒性試験 大豆イソフラボンを雄性ddy系マウスに単回経口投与したが,5g/kgの用量では死亡例はなかった。また、大豆胚芽抽出物についても同様に試験を行ったが、5g/kgの投与量での死亡例は無く、LD50は5g/kg以上と考えられた。また、全ての固体において特記すべき部検所見はなかった(2)。 3)大豆イソフラボン投与試験 卵巣摘出マウスへの大豆イソフラボン(ゲニステイン)の皮下投与試験により、ある一定の容量(0.7mg/day)では子宮に作用することなく、骨量減少を抑制することが確認されている。さらに、骨量減少抑制あるいは子宮肥大を起こすゲニステインの50%有効量はそれぞれ0.29mg/dayあるいは3.0mg/dayであることから、骨の方が子宮よりも大豆イソフラボンに対して10倍程度感受性が高いことが確認されている(3)。
(1) (財)食品薬品安全センター秦野研究所,外部委託試験(1997) (2) 静岡県立大学,外部委託試験(1996) (3) Ishimi Y et al., Biochem.Biophys.Res. Commun.,274,697-701(2000)
1)ブラジルに在住の閉経期前後の日系人女性(n=40、平均年齢53.1±3.5、平均閉経年数7年)に対して、大豆イソフラボン37.3 mgを10週間にわたって毎日摂取させた結果、骨吸収マーカーであるピリジノリン(Pyr)及びデオキシピリジノリン(D-Pyr)が低下した(1)。 2)健康な日本人女性(n=23、40-62歳)に対して、大豆イソフラボン61.8mgを毎日、4週にわたって摂取させた結果、Pyr及びD-Pyrの有意な低下が認められた(2)。 3)Dalaisらは、イソフラボン約50mgを含む大豆食の12週間の摂取により骨塩量が有意に増加することを報告している。 4)当該食品である「大豆芽茶」(大豆イソフラボン40mg含有)の摂取試験では、更年期の女性(n=26)を対象として2週間(休止期間3週間)のクロスオーバー試験を実施し、摂取後のPyr及びD-Pyrの低下傾向および有意な低下(p<0.05)が認められた(4)。
(1) Yamori Y et al., J. Am. College Ntur., 21, 560-563 (2002) (2) Uesugi Y et al., J.Am.College Ntur. 21, 97-102 (2002) (3) Dalais et al., Climacteric, 1, 124-129 (1998) (4) 寺本ら., 健康・栄養食品研究, 3, 53-62 (2000)
1)Ishidaらは、卵巣摘出-低カルシウム食飼育による骨粗鬆症モデルラットに対してダイズインを経口投与した結果、25mg/kgの投与でコントロール群と比較して骨密度の低下を有意に抑制し、50mg/kgの投与では骨密度のみならず骨強度の低下も有意に抑制されている事を報告している(1)。 さらに、ゲニスチンおよびグリシチンについても50mg/kgの経口投与で骨密度および骨強度の低下を有意に抑制することを報告している(2)。 これらの実験では、骨中の灰分、カルシウム及びリン量の低下抑制も確認されている。 2)卵巣摘出SHRSPに、ダイズイン、ゲニスチン及び大豆胚芽抽出物をイソフラボン含量として44mg/kgを投与した試験において、骨密度と尿中骨マーカーであるPyr及びD-Pyrの有意な低下抑制が認められた(3)。
(1) Ishida H et al., Biol.Pharm.Bull., 21,62-66 (1998)) (2) Ishida H et al., Biol. Pharm. Bull., 24, 368-372 (2001) (3) Teramoto T et al., J. Clin. Biochem. Nutr., 28 15-20 (2000)