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アミグダリン

カテゴリー:素材
更新日:2019/01/21

はじめに

 ビワやモモ、ウメ、アンズなどの身近な果物の種子に含まれているアミグダリン。「ビタミンのひとつ」「欠乏するとがんや生活習慣病の原因となる」「がん細胞だけを攻撃する」などと謳われていますが、「そもそもアミグダリンって何?」「がんへの効果は本当にあるの?」「身近な果物に含まれているけど安全なの?」といった疑問をまとめました。

 

アミグダリンとは?

アミグダリン (amygdalin) は、バラ科サクラ属の植物であるアンズやウメ、モモ、スモモ、アーモンド、ビワの未熟果実の種子にある仁<じん>という部分に多く含まれている青酸配糖体(構造中にシアンと糖を持つシアン化合物の総称で、分解によりシアン化水素(青酸)を生じる自然毒)です (下図参照) 。微量ですが未熟な果実の果肉や葉、樹皮にも含まれています。同じバラ科植物には、プルナシンという青酸配糖体をもつものもあります。植物がこのような青酸配糖体をもつのは、自分自身を守るためだと考えられています (1)。

アミグダリンの図

アミグダリンはビタミンなの?

 過去にアミグダリンをビタミンB17と呼んでいた時がありましたが、現在では否定されています (2) 。アミグダリンは、生体の代謝に必須な栄養素ではなく、また欠乏症も報告されていないのでビタミンの定義には該当しません。そのため、ビタミンB17という名は適切ではありません。

 

アミグダリンはがんに効くの?

 1970年代頃、アメリカの生化学者Ernst Krebsがアーモンド (苦味種) の仁から抽出したレートリル (アミグダリンの別名) ががんの増殖を抑制するとの説を唱え (3) 、アメリカやメキシコを中心にがんの治療に用いられた時期がありました (4) 。しかし、レートリルの効果を検証した臨床研究の結果、『レートリルはがんの治療、改善および安定化、関連症状の改善や延命に対し、いずれも効果がなく、むしろ青酸中毒をおこす危険性がある』 (2) (5) (6) (7) と結論付けられています。また、「欠乏するとがんや生活習慣病の原因となる」「がん細胞だけを攻撃する」などといった情報の科学的根拠は確認できていない、あるいは否定されています。そのため、現在、FDA (米国食品医薬品局) はアメリカ内でのレートリルの販売を禁じています。それにもかかわらず、レートリルは現在でも「アミグダリン」や「ビタミンB17」としてインターネットなどで流通しています (8) 。

 

アミグダリンはなぜ危険なの?

 アミグダリンを含む果実を傷つけたり、動物が食べたりすると、アミグダリンは果実の仁に存在するエムルシンという酵素や動物の腸内細菌のβ-グルコシダーゼという酵素によって分解され、シアン化水素 (青酸、HCN) を発生させます。ヒトが高濃度のシアン化水素を摂取すると、細胞のエネルギー産生が阻害され、急性中毒につながります。
アンズやモモの仁は、生薬の材料 (杏仁<キョウニン>、桃仁<トウニン>) とされ、摂取することで去痰・鎮咳などに (9) 、正常な皮膚に塗布することで局所麻酔 (かゆみを止めるなど)に使用されています (10) 。これは、アミグダリンを薬効成分として利用している例です。アミグダリンの毒性の原因であるシアン化水素は、ごく少量であればミトコンドリアの酵素 (ロダナーゼ) の作用によって、毒性が弱く排泄されやすい形に変換されるため、安全に利用できます。「毒も少量を上手に用いれば薬に転じる」という典型的な例ではありますが、安易な摂取は大変危険ですので、薬効を期待して利用する場合は必ず医療従事者に相談してください。

 

アミグダリンを含む果物は安全なの?

 アミグダリンを少量食べても大きな問題は起きませんが、多量に摂取すると悪心や嘔吐、頭痛、目まい、血中酸素の低下による皮膚の青白、肝障害、異常な低血圧、眼瞼下垂、神経障害による歩行困難、発熱、意識混濁、昏睡が起こる可能性があり、死に至ることもあります (5) (6) 。実際に、アミグダリンまたは杏仁や桃仁を多量摂取したために健康障害を起こした例も報告されています。詳しくは、素材情報データベース「アミグダリン、レートリル、レトリル」をご覧ください。
 果肉中のアミグダリンは、果実の成熟にともなって、酵素のエムルシンによる分解で糖に変わり、消失していきます。そのため、熟した果肉を食べる場合は未熟果実のような心配はありません。また、梅干しや梅酒、梅漬けなどの加工により、アミグダリンの分解は促進されると言われているため、これらの加工品ではアミグダリンの影響は非常にわずかであると考えられます。しかし、仁のアミグダリンは果肉に比べて高濃度であるため、成熟や加工によるアミグダリンの分解も果肉より時間がかかります。食品として常識的な量の摂取にとどめましょう。なお、アーモンドには甘味種と苦味種の二種類があり、食用の甘味種はアミグダリンをほとんど含みません。
 2017年12月、農林水産省はビワの種子粉末を摂取することについて、「通常摂取される熟した果肉に含まれるシアン化合物はごくわずかである一方、種子を乾燥させ、粉末に加工した食品の場合は、シアン化合物が高濃度に含まれ、健康に影響を与えるおそれがある。」という注意喚起を行っています (11) 。摂取をする前に今一度、本当に必要かを考えてください。

 

おわりに

 未熟な果実や種子に含まれるアミグダリン。健康に良いと謳われている場合もありますが、効果に関する十分な根拠はなく、むしろ青酸中毒をおこす危険性があります。果実の成熟により果肉中のアミグダリンは消失していくため熟した果肉は安全に食べることができますが、種子 (仁) は果肉よりもアミグダリンがたくさん含まれているため、効果を期待して多量に摂取すると、かえって健康を害する場合があります。また、種子を粉末にした食品の摂取には注意が必要です。

 

参考文献

1. (PMID:9431670) Phytochemistry. 1998; 47(2):155-62
2. (PMID:15061600) CA Cancer J Clin. 2004 Mar-Apr;54(2):110-8. Review.
3. J Appl Nutr Vol.22, No.3 and 4, 1970
4. K.M. Krapp, J.L. Longe, The Gale Encyclopedia of Alternative Medicine, Second Edition, Thomson Gale. (2000)
5. 米国国立がん研究所ファクトシート(一般用)
6. 米国国立がん研究所ファクトシート(専門職用)
7. (PMID:7033783) N Engl J Med. 1982 Jan 28;306(4):201-6.
8. (PMID:11444247) FDA Consum. 2001 Mar-Apr;35(2):37-8.
9. 第十五改正日本薬局方解説書
10. 中薬大辞典、上海科学技術出版社・小学館編、初版、小学館(1998)
11.農林水産省がビワの種子粉末の摂取に注意喚起 (171207)

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