大阪大学 感染症総合教育研究拠点(CiDER)科学情報・公共政策部門/社会技術共創研究センター(ELSIセンター)特任准教授
文部科学省 科学技術・学術政策研究所(NISTEP) 客員研究官
井出 和希
もくじ
1.はじめに
皆さんは「健康食品」と聞いて、どのようなものが思い浮かぶでしょうか?またそのはたらきについて、どのような根拠があるか示されているか気にしたことはあるでしょうか?
実は、いわゆる「健康食品」には法律上の明確な定義がありません(1)。今回のコラムでは、トクホとして知られる特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品に加えて、機能を表示することが認められていない食品(であるにも関わらず機能性を想起させるような言説を目にするもの)も含めて「健康食品」として扱います。
2.「健康食品」の種類はどのくらい多いの?
2024年1月28日時点で確認できる情報として、トクホは1,058商品(2023年12月22日更新)、機能性表示食品は3,396商品(2024年1月25日更新)ありました(2)(3)(4)。栄養機能食品は特定の成分を基準値以上含んでいる場合に栄養機能を表示できるものですので、具体的な数はわかりません。また、機能を表示することが認められていない食品も含めて考えると、すごい数の「健康食品」が私たちの身の回りにあることが想像できます。
3.情報に触れる際に気を付けたいこと
「健康食品」のはたらきの根拠づけには(制度内のものも含め)問題が指摘されることもあります(5)。このような中で「健康食品」に関する情報に触れる際、具体的に根拠を探し内容を吟味しようと思うと専門家でも時間を要します。そこまで大変なことを一人一人が日々繰り返すというのは現実的ではありません(著者の私でもそんなことを押し付けられたら嫌になってしまいます)。そのため、まずは「食品、サプリだからといって安全ではない」という前提で、一歩引いて気になる商品に怪しい点はないだろうかと気にかけてみましょう。
例えば、商品そのものとは直接関係のない企業の凄さや売上、大学教授のような権威を感じさせる肩書き、買ってくれそうな人たち(ターゲット層)が魅力的に感じるインフルエンサーを前面に出した宣伝が目立っていないでしょうか?それは、ネームドロッピングと呼ばれる手法かもしれません。
吟味はさておき、具体的な根拠に辿り着けそうかどうかを確認するだけでも意味があります。機能性を感じさせるようなグラフや数字、言葉は何をもとに示されているでしょうか?何を対象とした研究によるものなのか(細胞?動物?人?)、学術論文として既にまとめられているものなのか、といったことに気を配ってみましょう。
「まとめられているから大丈夫」とはいえないところも難しい部分です。根拠となっている研究の質に大きなバラツキがあることはもちろんのこと、(残念ながら?)科学には不確実性がつきものなのです。そして、「健康食品」は、医薬品ではありません。成分の量が多いからいいというものでもありませんし、治療の目的で使用するものでもないことを忘れずに上手に付き合っていきましょう。
4.とはいえ、使ってみたいなという時は
コラムをここまでご覧いただいて「ややこしくて判断に困る・・・」と思われるような場合、「健康食品」そのものと距離を取ることも一手です。例えば、第14回のコラム (妊娠とサプリメントの利用について(6)で説明されている妊娠に関わる話題など、特に気になることだけに触れてもいいでしょう。その分、情報を吟味する余裕が生まれるかもしれません。また、私たちが普段の生活を送る上では、食事のバランスや生活習慣を整える工夫を(無理のない範囲で、続けられる程度に雑に)するだけでもそれほど問題はありません。
「情報の吟味も含めて面白いな」と思われた方は、eJIMのウェブサイトに掲載されている「情報の見極め方」(7)や多くの方に向けて書かれた健康情報にまつわる本(8)、映像資料(9)などを参考にしてみてください。
最近では越境eコマースが発展し、海外からも気軽に「健康食品」を入手できるようになりました。商品選択の幅が広がった半面、その質は様々です。「そもそも本当にその「健康食品」は必要なのか」ということに立ち返りつつ、海外のことも含め日本語で随時更新されている「被害関連情報」(「健康食品」の安全性・有効性情報(HF Net(えいち・えふ・ねっと))内)(10)もご覧になってみてください。
なお、「健康食品」のなかには薬のはたらきに影響を及ぼすものもありますので、相談しやすい医師や薬剤師をみつけて関係性を築いておくことも大事です。
5.これから起こりそうな変化を乗りこなす(または、やり過ごす)ために
既に試した方もいらっしゃるかもしれませんが、2022年11月のChatGPT(GPT3、対話型の文章生成AI;米OpenAI社)リリース以降、生成AIが社会に大きな影響を及ぼしはじめました(11)。この技術の社会的影響の大きさや私たちが主体的にこれからを考えていくことの大切さは、『東京都同情塔』(九段理江 著、第170回芥川賞受賞作)(12)やそれを取り巻く言説からも想像できます。
「健康食品」にまつわる情報も対話的に集めることが徐々に増えてくるかもしれません。例えば、このHF Net(えいち・えふ・ねっと)で効果は確認されていないとされている「感染症予防に亜鉛が効く」(13)ということについて聞いてみるとどうでしょう?無料提供されているChatGPT3.5に問いかけると、専門家への相談についておすすめした上で数行の説明と共に「効く」と答えました(2024年2月22日時点)。
“はい、亜鉛は感染症予防に効果があります。亜鉛は免疫システムの正常な機能に重要であり、特に風邪やインフルエンザなどのウイルス性感染症の予防や症状の緩和に役立つとされています。研究によると、亜鉛を定期的に摂取することで感染症の発症や症状の重症度を軽減する効果があると報告されています。しかし、効果の程度や個人差がありますので、亜鉛サプリメントを摂取する前に医師や専門家に相談することがおすすめです。”
それっぽい数行の説明が載せられていると、ついつい信じそうになってしまいます。このように、機械的に生成された文章と気が付かない程度に精度が上がってきていることからも、益々情報を吟味する力を養ったり、面倒ならば一歩引いて付き合っていったりすること-生活のなかでちょうどいい立ち位置を時々考えること-の重要性が増してきています。
参考資料
(1)いわゆる「健康食品」のホームページ .厚生労働省(2024年1月28日閲覧)
(2)特定保健用食品について. 消費者庁(2024年1月28日閲覧)
(3)保健機能食品について. 消費者庁(2024年3月6日閲覧)
(4)機能性表示食品の届出情報検索. 消費者庁(2024年1月28日閲覧)
(5)唐木英明. 機能性表示食品のプラセボ対照試験の問題点 .日本薬理学雑誌. 2023; 158: 515.
(6)コラム(「健康食品」の安全性・有効性情報(HF Net えいち・えふ・ねっと)内)(註:特に「専門家に聞きました」の第14回を参照のこと)(2024年2月22日閲覧)
(7)情報の見極め方. 厚生労働省『「統合医療」に係る 情報発信等推進事業』(2024年1月28日閲覧)
(8)中山健夫. 健康情報は8割疑え! 東京: 法研; 2021.
(9)井出和希, 岸本充生. コロナ禍における研究情報の発信を振り返る-「プレスリリース」の目利きになろう-(2024年2月22日閲覧)
(10)被害関連情報(「健康食品」の安全性・有効性情報(HF Net えいち・えふ・ねっと)内)(2024年1月28日閲覧)
(11)ChatGPT. OpenAI.(2024年2月22日閲覧)
(12)九段理江. 東京都同情塔. 東京: 新潮社; 2023.
(13)「感染症予防に亜鉛が効く」等の情報に注意( 「健康食品」の安全性・有効性情報(HF Net えいち・えふ・ねっと)内)(2024年2月22日閲覧)
井出 和希
2016年 静岡県立大学大学院 薬食生命科学総合学府 修了、博士(薬科学)、薬剤師。2024年 京都芸術大学大学院 芸術研究科(通信教育)修了、修士(芸術)。京都大学 学際融合教育研究推進センター、同 iPS細胞研究所 上廣倫理研究部門を経て現職。詳細はこちら