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【第12回】食品やサプリメントで歯が溶ける?酸蝕症をご存じですか?

カテゴリー:専門家に聞きました
更新日:2023/03/31

東京歯科大学 衛生学講座
講師 佐藤涼一

もくじ

  1. はじめに
  2. 酸蝕症とは(虫歯とは何が違うの?)
  3. 酸蝕症の現状
  4. 酸蝕症の原因
  5. 酸蝕症を悪化させる薬やサプリメントの服用方法
  6. 酸蝕症の予防と対策

 

1. はじめに

 歯が溶ける病気と聞くと、読者の皆さんがまず思い浮かべるのは虫歯(う蝕)かと思います。皆さんは近年の生活スタイル、食生活の変化や健康ブームによって急増している「酸蝕(さんしょく)症」という口腔疾患をご存じでしょうか。酸蝕の罹患率は25~60%と報告されており、特に成長途中で歯の弱い若年者や唾液分泌の少ない高齢者で深刻になりやすい疾患です(1)。ここでは日本人の約4人に1人が罹患しているとも報告され、虫歯や歯周病に続く第三の疾患として注目を集めている酸蝕症について原因や対策も含めて解説いたします。

 

2. 酸蝕症とは(虫歯とは何が違うの?)

 虫歯は飲食物に含まれる糖類を材料として、虫歯の原因菌であるミュータンス菌が酸を作ることで起こります。虫歯は、食事因子、微生物因子、宿主因子(歯や唾液の強さ)の3つの条件が満たされた時に発生する多因子疾患です。一方、酸蝕症とは「細菌の関与しない化学的な歯の不可逆的な脱灰(だっかい)・溶解」と定義されています。つまり、細菌の作る酸ではなく、酸性の飲食物や薬・サプリメントなどで化学的に歯が直接溶けてしまう状態を示します。酸蝕症の歯の症状としては、冷たいものや酸っぱいものがしみやすい(知覚過敏)、歯の凹凸が無くなって丸い形になっている、歯の詰め物が浮き上がっている、前歯が透けるほど薄くなってひびが入ったり欠けたりしているなどが挙げられます。虫歯とは違い自覚症状無く急速に進行してしまう方も多く、歯科健診などで指摘されて初めて気が付くことも多い疾患です。

 

3. 酸蝕症の現状

 酸蝕は成人よりも小児で罹患率が高く、英国の5~15歳の小児における酸蝕罹患率の調査では5歳児の半数以上に酸蝕が認められています。酸に対する感受性が高い乳歯だけでなく、11~15歳の永久歯でも約1/3に酸蝕が認められました(2)。若年層での酸蝕の増加原因としては主に果汁(柑橘類)、炭酸飲料などの清涼飲料水の摂取が挙げられており、これは近年の若年層の清涼飲料水の摂取量・頻度が増加傾向である事実によっても裏付けられています。

 

4. 酸蝕症の原因

 酸の由来によって内因性と外因性の2つに分類されます(3)。内因性に最も関連しているのは胃液です。胃液はとても強い酸である塩酸(pH1.0~2.0)からなり、嘔吐などで口腔内に逆流することで歯の舌側を溶解します。月に一度や数回の嘔吐程度では歯は溶けませんが、胃食道逆流症(gastroesophageal reflux disease:GERD)や過食症・拒食症、アルコール依存症による頻回の嘔吐では重篤な脱灰が発生します。外因性とは飲食物とサプリメント、薬物、職業によるものです。外因性の場合は、歯の唇側(外側)が溶けます。近年の食生活の変化や健康ブームの影響で果物やクエン酸を含む飲料など酸性の飲食物の摂取量が増加しています。柑橘類や梅干し、疲れを回復すると宣伝されている清涼飲料水などはクエン酸やリン酸という酸が多く含まれています。健康に良いと言われるお酢には酢酸、ワインには酒石酸やリンゴ酸、おなかにやさしい乳酸菌飲料には乳酸のように、健康に良いことを謳う飲食物には高確率で酸が含まれています。健康に良い食事や習慣は歯の健康にも良いとは限らないのです。酸蝕のリスクは柑橘類を1日に2個以上摂取すると37倍、飲料酢を週に1回摂取すると10倍、清涼飲料を週に4~6本以上摂取すると4倍になると報告されています(4)。酸の種類によってもリスクは異なり、クエン酸はpH1.5~2.5の間では酸蝕を起こす能力が塩酸や硝酸の2倍と非常に高いことが報告されています(5)。日常的に摂取する飲食物が酸蝕のリスクファクターとならないか注意が必要です。

酸蝕症の原因の画像

 

5. 酸蝕症を悪化させる薬やサプリメントの服用方法

 サプリメントには胃や腸で作用させるために内服カプセル型の製品も多くありますが、カプセルを奥歯でかみ砕いてから飲み込む、カプセルを開けて中身のみを服用する方が少なからず存在します。唾液分泌の低下や飲み込む筋力の低下でカプセルを飲みこみにくいと感じている高齢者の方や、その方が早く効くのではないかと誤解している方で多い服用方法です。しかし、これは医療的にも酸蝕症の観点からみても大変危険です。サプリメントに限らず、すべての薬の形状には意味があります。コーティングされた錠剤やカプセル内の薬剤は強酸性の場合もあり、かみ砕いた時に歯を溶かしてしまうことがあります。例えばビタミンC(アスコルビン酸)の錠剤や解熱鎮痛消炎剤のアスピリンは酸性であり、誤った服用方法によって酸蝕症を悪化させることが報告されています(6)。薬やサプリメントは指定された方法で正しく服用しましょう。

5.酸蝕症を悪化させる薬やサプリメントの服用方法の画像

 

6. 酸蝕症の予防と対策

 酸蝕症の予防としては、酸性飲食物の摂取量と頻度を少なくすることが最も効果的です。特に、就寝直前には酸性の飲食物の摂取を避けてください。唾液には酸に対する緩衝能(pHを中性に戻す力)がありますが、就寝中には唾液分泌量が著しく低下し酸に弱い状態になるためです。また、摂取方法も酸蝕症の進行に影響が大きく、酸性飲料は口の中にためずに飲み込む、ストローを使用して飲料が歯に当たる頻度を減らす、酸性食品と牛乳やヨーグルトなどカルシウムを多く含む食品を一緒に食べるなど心がけるだけでも改善が見込めます。また、歯科医院ではフッ化物を塗布することで歯の耐酸性を向上させる予防処置を受けることもできます。酸蝕症の対策は早期発見が大事です。定期的に歯科医院を受診しましょう。

 

文献
  1. J Dent. 2005 Mar;33(3):243-52.
  2. Br Dent J. 1996 180(9):349-352.
  3. 歯界展望. 2005 106(6):1118-1142.
  4. J Dent Res. 1991 70(6):942-947.
  5. Br Dent J. 1952 93:177-179.
  6. 医歯薬出版 歯が溶ける!エロージョンの診断から予防まで 2009, P.14-15,25 ISBN978-4-263-42169-7

 

佐藤涼一(さとうりょういち)

2012年東京歯科大学卒業、歯科医師、2013年産業技術総合研究所、2017年博士(歯学)、衛生学講座助教、2020年より現職。日本口腔衛生学会 専門医・代議員、専門は予防歯科学、フッ化物応用、酸蝕症、時間生物学。

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