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【第1回】健康食品の利用に必要な情報とその解釈

カテゴリー:専門家に聞きました
更新日:2021/05/06

もくじ

  1. はじめに
  2. 健康食品の情報源とその特徴
  3. エビデンス情報を理解する際に役立つPICOの考え方
  4. 利用者自身が作成する情報
  5. おわりに

 

1.はじめに

健康食品の利用目的は、健康の保持増進、栄養補給、ダイエット、美容、病気の改善など、人によって様々です。

個々人の目的がかなう商品の選択および安全で効果的な利用には、信頼できる情報の入手とその正しい解釈が必要です。そこで健康食品に関する情報の実態とエビデンス情報の解釈について、一つの考え方をご紹介します。

 

2.健康食品の情報源とその特徴

健康食品の利用に際して参照される情報には、テレビCM、友人・知人のロコミ、インターネットや体験談などがあります(1,2)。それらの情報源をたどれば、結局は事業者側から出された、商品販売の促進を意図し、有効性を過大評価して安全性を過小評価した内容となっています。実際、オンラインで提供されているサプリメント情報を分析した研究で、安全性情報(潜在的な副作用など)がほとんど提供されていないことが示されています(3)。

特定保健用食品は保健機能表示が認められている商品で、その機能表示の文言は国の許可時に審査され、通常は商品パッケージの側面の枠内に、原材料名、内容量、栄養成分などとともに表示されています。しかし、実際に消費者が参照している文言、テレビCMなどで目にする文言は、商品パッケージの前面に大きく印刷されている「キャッチコピー」「キャッチフレーズ」です。例えば「コレステロールを下げる」「血糖値を下げる」などです。これらの文言はわかりやすい一方、本来の商品の作用を拡大解釈させ、あたかも医薬品のような効果を期待させています。

栄養機能食品は既定の栄養機能表示ができる商品です。その新聞広告に掲載されている表示を分析した研究で、既定の機能表示の文言と商品で強調されていた文言に違いがあることが示されています(4)。

利用者の視点に立てば、健康食品の有効性情報については、その効果の限界が理解でき、安全性情報とセットで提供されていることが理想的です。しかし、私たちがGoogleやYahooで検索する際、どうしても事業者側から発信されている有効性情報が先に表示され、行政側などから発信されている安全性情報にたどり着けない状態となっています。そこで情報を調べる際には、「誰がどのような目的で情報を出しているのか」を認識することが重要になります。

 

3.エビデンス情報を理解する際に役立つPICOの考え方

健康食品は、「誰が、何を、どのように摂取するか」によって有益にも有害にもなります。その判断に役立つのが論文のエビデンス情報です。論文情報は健康食品の有効性と安全性を判断する際に重要ですが、利用者が商品の購入時に最も確認していない項目のようです(5)。とは言っても、現実的に一般の方が論文情報を理解することは容易ではありません。

そこで論文情報の理解に役立つのが、PICO(またはPECO)の考え方です。PICO(またはPECO)とは、P(対象者、Patient、Participants、Population)、I/E(介入/暴露、Intervention/Exposure)、C(比較対照、Comparison)、O(転帰、Outcome)の頭の文字をとったもので、「誰に対して、何をすると、何に比べて、どうなるか」をさしています。

動物や細胞の研究結果は作用機序などを理解する上で重要ですが、それらの情報は、PICOの[P]がヒトではありません。ビタミンの不足状態の人にビタミンのサプリメントを投与して良い効果が得られたという情報が、不足状態でない人に適用できるとは言えません。[P]が違います。一般的に、ビタミンは不足状態の人が摂取すると効率的に体内に吸収されますが、不足状態ではない人が多量に摂取しても、体内濃度はそれほど高くはなりません。ビタミンなどのサプリメントの摂取者は、健康的な食生活をしていて、通常の食品からのビタミンなどの摂取量が必ずしも少ないわけではないようです(6-8)。

品質の確かな成分・原材料で実施されたヒト試験結果が、多様な品質の原材料からできている市販商品に当てはまるとは言えません。PICOの[I]が異なります。ちなみに、機能性表示食品では、aという原材料で実施された効果が、a,b,cなどの複数の原材料を含む製品に適用されています。これは厳密には結果を拡大解釈しています。特定保健用食品は市販される製品[I]を用いてヒト試験が実施され、関与成分を含まない対照食品との比較[C]もあるので、エビデンスとしては高いと言えます。ヒト試験で食品の効果を投与前後で調べた研究論文があります。その試験結果は対照との比較[C]がないので、効果の真偽は不明確と解釈できます。食品の効果を数か月間観察する場合、対照群[C]のない研究結果は、季節変動の影響を排除することができません。

PICOの考え方は、安全性情報を解釈する際にも役立ちます。病者が健康食品に医薬品的な効果を期待して利用されることがあります。しかし、健康食品で実施された試験の対象者[P]は、ほとんどが病者ではありません。病者が健康食品を摂取した時にどのような有害事象が起きるかは定かではありません。以前に米国で、未熟児がクモノスカビに汚染されたダイエタリーサプリメントを院内投与され、ムーコル症で死亡した事例がありました(9)。この事例は、該当商品が医薬品のような徹底した品質管理がなされていなかったこと、摂取者が未熟児であったことが関係していたと考えられます。つまり、[P]と[I]が本来の商品のエビデンスとは異なるため、有害事象が起きたと解釈できます。

以上のPICOの考え方は、様々な情報の過大評価や過小評価の防止に役立つでしょう。

 

4.利用者自身が作成する情報

健康食品で全ての人が標榜されている効果を実感でき、また安全なものはありません。「誰が、どのような商品を、どのように利用するか」によって、それらは有益にも有害にもなります。信頼できるエビデンス情報があっても、それが自身に当てはまるか否かは摂取してみなければわかりません。では、商品が自分に有益かどうかをどのように判断すればよいのでしょうか。それには商品の利用メモの作成が役立ちます。メモには「いつ、どこの商品を、どれだけの量で摂取し、その時の体調はどうなのか」を記録していくのです。

利用状況のメモに「良い実感がある」が並んでいけば、その商品は自身にあっていると解釈できます。一方、数か月も摂取していて「良い実感がない」というメモが並んでいけば、摂取する意味はないと判断できます。摂取していて体調に異変を感じたら一旦利用を中止し、その状況を少し細かくメモすると、その体調不良の原因が推定できます。健康食品による有害事象としては、消化管の不調や発疹・発赤などの皮膚症状が多く、それは他の食品の摂取などでも起きます。そこで商品の摂取を中止して有害な症状が速やかに改善すれば、商品と症状の因果関係が疑われ、もし商品を再摂取して同じ症状が出てしまったら、それは自身には合わない商品で、以後は摂取するべきではないと判断できます。

健康食品としては、お茶やヨーグルトなどの一般的な食品から特定成分が濃縮されたサプリメント形状の商品まであり、それら全ての商品の利用メモをとっていくことは大変です。そこで現実的な対応としては、特定成分を毎日継続摂取するサプリメント形状の商品について、利用のメモをすればよいでしょう。健康食品の利用メモは、お薬手帳と併用することで、医薬品との飲み合わせの問題も推定が可能になります。

以上のように自分自身で利用メモを作成することは、自分の情報を作成することとなり、整理されていれば自身が最も信用できる情報となるでしょう。健康食品の利用メモの詳細については、このサイト内に具体的に記載されています(10)。

 

5.おわりに

健康食品の利用で最も避けなければならないことは、病気の治療を目的に使うことです。健康食品そのものが安全でも、適切な治療を受ける機会を逃して病状が悪化したり、医薬品と併用して医薬品の効果の減弱や副作用の増強が起きたりする可能性があるからです。

健康食品はあくまで食品であり、医薬品のように医師や薬剤師の管理下で利用するものではなく、消費者の自己判断で選択利用するものです。しかし、消費者自身で健康食品の論文情報などを正しく理解することは難しく、助言する人が必要です。国は保健機能食品の制度ができた時に、民間で消費者に適切にアドバイスする人員の養成を求めました(11)。その求めに応じで必要な専門的知識を備えた人員がかなりおられます。それらは、(一般社団法人)日本臨床栄養協会が認定している「NR・サプリメントアドバイザー」、(一般社団法人)日本食品安全協会が認定している「健康食品管理士」、(公益社団法人)日本健康・栄養食品協会が認定している「食品保健指導士」です。これら資格取得者は、別途に薬剤師、管理栄養士、臨床検査技師などの保健医療に関する国家資格を持っている人が多く、頼れる存在です。健康食品の情報を理解する際、わからなければそれらの方に相談されることをお勧めします。

最近のSNSなどでは様々なフェイクニュースが出されており、専門職でも混乱する状況となっています。健康関連の情報の見極め方については、厚生労働省『「統合医療」に係る情報発信等推進事業』のサイト内に、「情報を見極めるための10か条」として、わかりやすく詳しく解説されています。是非、参照してください。

 

文献

1.日本栄養・食糧学会誌(2008)61: 285-302
2.食品衛生学雑誌(2017)58:107-112 
3.Am J Med. (2014)127: 109-115
4.日本公衆衛生雑誌(2010) 57: 291-297
5.医療情報学(2018) 38: 125-136
6. Eur J Epidemiol (2004) 19: 335-341
7. Am J Clin Nutr(2011) 94: 1376-1381
8. Asia Pac J Clin Nutr(2016) 25: 385-392
9. 厚生労働省がクモノスカビに汚染された健康食品 (ABC Dophilus Powder) に注意喚起 (141120)
10.消費者向け:「健康食品手帳」の紹介
11.保健機能食品等に係るアドバイザリースタッフの養成に関する基本的考え方について(食発第0221002号)(2002)

 

梅垣敬三(うめがき けいぞう)
昭和女子大学食健康科学部・食安全マネジメント学科 教授
1980年静岡薬科大学卒業、1985年同大学院博士課程修了(薬学博士)。
ミシガン州立大学客員研究員を経て、1986年国立栄養研究所(現、医薬基盤・健康・栄養研究所)に入所。
2018年より現職。

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