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【第16回】 健康に良い間食「機能性おやつ」

カテゴリー:専門家に聞きました
更新日:2024/02/14

早稲田大学 ナノ・ライフ創新研究機構
規範科学総合研究所ヘルスフード科学部門 部門長

矢澤一良

もくじ

  1. 「おやつ」の語源は健康維持を意味する
  2.  食育としてのおやつ
  3. 「機能性を期待するおやつ(ウェルネスおやつ)」を食する意味・意義
  4.  おやつの摂り方の工夫により効果が異なる

 

1.「おやつ」の語源は健康維持を意味する

「おやつ」の語源は元々が日本の和時計における「八つ時(やつどき=午後2時前後)」に由来する。1日2食の時代に、体力維持のため休憩時に取っていた「やつどき」に食した軽い間食のことであるが、1日3食が慣習となった20世紀後半より現在では単に朝食・昼食・夕食以外の間食全般を指すようになっている。
本来「おやつ」は、3食しっかりと摂る事を前提とし、それを補助する役目(補食的)を持つものと定義するべきである。一方で「おやつ」は育ち盛りの子供たちに限らず大人の世界でも、楽しみやご褒美としての認識であったが、近年では気分転換や作業効率を上げたり、コミュニケーションを取り、ストレスを解消するといった効果や美容効果を期待したおやつの考え方が出ている。

日本のおやつ習慣の歴史は古いが、栄養欠乏の時代から現在では間食・分食が健康維持・増進や生活習慣病予防にも有効である事が科学的に証明されてきている。
一般に、空腹時の食欲に任せて一気に糖質を摂取すれば血糖値が急激に上昇して、インスリン分泌の急激な増加を来たし、その繰り返しによりインスリン抵抗性が定常化して2型糖尿病となる。さらに糖質の脂肪への変換、膵臓の疲弊などの有害性もあり、その先はメタボリックシンドロームとさらにハイリスクの生活習慣病に直結となる事が知られている。
反対に、予防医学の見地から見た「おやつ」は、急激な食後血糖値上昇を抑制して、生体調節機能が十分に働くよう調節する事で、疾患発症を抑制して健康の維持・増進、予防医学を実践する効果をもたらす働きを有する食品との認識をしている。

 

2.食育としてのおやつ

厚生労働省・農林水産省のホームページでも、菓子・嗜好飲料は、食生活の中で欠くことのできない要素であると捉えられている。平成17年に制定された「食育基本法」と同時に、行政から「食事バランスガイド」が提示されました(右図)。
このイラストを見ると、独楽の幅が食品の種類とその摂取量を具体的に示すものであり、独楽を回す「ヒモ」として菓子・嗜好飲料が推奨されている(但し「適度に楽しく」との記載も)。 
すなわち「菓子・嗜好飲料=おやつ」は、コマを回すヒモ(食育の原動力)として表現されており、3食によって必要な栄養をバランス良く摂り、それに加えて「楽しみ」としての「おやつ」を「適度に楽しく」摂ることで、私たちの食生活は、理想的な形でなめらかに回転していく、ということを意味する。
この生活の潤滑油としての「おやつ」に、さらに健康を増進させる機能(成分)が備わる「機能性を期待するおやつ」(ウェルネスおやつ)は、当然ながら利用する対象や目的によって異なってくる。例えば、男性、女性といった性別の違いや、妊婦、小児・子供、思春期、中高年、高齢期といったライフステージの違い、また疾患の有無の違い等で、「おやつ」を利用する目的は異なってくるであろう。軽作業や重労働、スポーツ選手等、活動内容の違いによっても求められ、ストレス、メンタルヘルスや睡眠などにも有用なもの(「ムードフード」と呼んでます)など、「機能性を期待するおやつ」は様々考えられる。

 

3.「機能性を期待するおやつ(ウェルネスおやつ)」を食する意味・意義

2017年に「機能性表示食品」(販売時に機能性の表示が可能である)制度が出来、菓子類でも健康の維持・増進に資する、安全で作用機序が科学的に検証される場合には機能性表示食品として販売できることになった。
「機能性表示食品」に至らずとも、ある程度の機能を期待できる「ウェルネスおやつ」が増えてきており、ドラッグストア、コンビニエンスストア、スーパーマーケット、調剤薬局などでも販売されている。
若年層であれば、運動機能・学習機能・美容や健康維持を目的とした「機能性表示おやつ」や「ウェルネスおやつ」を選ぶ事が可能である。
中高年者は、メタボリックシンドローム(代謝症候群)、ロコモティブシンドローム(運動器症候群)やメンタルヘルスに対応する予防医学的なおやつを選んで欲しい。
さらに高齢者においては「フレイル(虚弱)」対策のおやつを選ぶべきである。フレイルは慢性的な栄養摂取不全(カロリー不足及び栄養素のバランス不全の両面)が老化虚弱の負のスパイラルに陥り、ますます健康寿命を縮める事になってくる。フレイルは運動機能の衰えが代謝の衰えに連動しており、脳フレイルは認知機能の低下や認知症につながり、免疫フレイルは感染症罹患とその重症化につながり、社会的フレイル(コミュニケーション不足)はうつ状態や生活不活発病となり、フレイルの負のスパイラルにさらに拍車がかかる事になる。ウェルネスおやつ摂取により、その進行度を抑制可能である。

 

4.おやつの摂り方の工夫により効果が異なる

おやつ・間食は太る、糖尿病になりやすい、習慣になって3食がしっかり摂取出来ない・・・などのマイナス要因を考える人もいますが、その摂取を我慢する事のストレスや、空腹時に食事した場合の急激な血糖値の上昇などを考えると、「賢いおやつの食べ方」をすれば、それらの懸念は全て払拭でき、むしろ健康な食生活が可能である。
具体的な方法の提案として、3食の間のおやつを、摂取しても1日の摂取カロリーを過剰にしない事具体的にはおやつ1回分は200Kcalを越えないようにする。

そのためには砂糖・脂肪や塩分は少なめのおやつを選ぶ事、美味しい事、すなわち継続する事が健康の秘訣であり、毎日少しずつ摂取する事で健康体質が出来あがり、楽しさが加わるとそれだけでも健康度は上がる。コミュニケーションツールとしての機能が評価され、社会的フレイル予防にもなる。
予防医学の実践には環境・生活習慣の改善もさることながら、人間の健康を司る「食生活」について見直すことが最も重要であると考え、食生活の中でも特に「おやつ」が重要なポイントであると着目した。すなわち、通常の食事では不足しがちな栄養素を「おやつ」として摂取することで、サプリメントや健康食品に馴染めない人に対しても、無理なく継続して人体にとって必要な栄養素や機能性成分を補うことが出来ると考えている。

世界では「ヘルシースナッキング」がトレンドになっていますが、ここで提唱したいのはそれを超える機能性を高めた日本のおやつを「OYATSU」として世界に発信をして行きたいと思っている。

 

 

参考資料

1)厚生労働省:国民健康・栄養調査(平成27年―令和1年)

2)厚生労働省:食事摂取基準を活用した高齢者のフレイル予防事業

 

矢澤 一良(やざわ かずなが)

1972年京都大学卒業、1973年(株)ヤクルト本社・中央研究所入社、1986年(財)相模中央化学研究所入所(主席研究員)、1989年東京大学より農学博士号を授与、2002年東京水産大学大学院(客員教授)、2014年早稲田大学(研究院教授)、2019年より現職

 

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