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【第18回】ピクトグラムを活用した食物アレルギー表示について 

カテゴリー:専門家に聞きました
更新日:2024/03/19

一般社団法人ユニバーサルコミュニケーションデザイン協会(UCDA)業務推進局局長/UCD研究所副所長

森下 洋平

もくじ

  1. はじめに
  2.  アレルギーの表示制度
  3. ピクトグラム活用のメリットと課題
  4.  ピクトグラムの活用事例
  5.  わかりやすさというパラメータ 〜「情報の非対称性」解消を〜

 

1.はじめに

私たち一般の生活者(消費者)は食品を選ぶとき、パッケージに印刷されたたくさんの情報を見ながら「買う/買わない」を判断しています。例えば栄養成分やカロリー、原材料など様々な項目があり、これらの表示方法は「食品表示法」という法律によって細かく規定されています。

パッケージの情報は年々複雑になり、増加するときもあります。こうして作られたパッケージを生活者(消費者)がどう受け止めているか、消費者庁の調査によると「文字が小さくて見にくい」、「表示事項が多すぎて見にくい」などの声が多数上がっています。(1)

こうした課題が解決され、パッケージの情報を正しく適切に理解することができればより良い食生活を実現し健康的な暮らしにつながるでしょう。今回はパッケージの情報の中でも関心が高い「食物アレルギー」の表示について考えてみたいと思います。

 

2.アレルギーの表示制度

食物アレルギーとは、特定の食品を摂取することで体を守る免疫のシステムが過敏に働き、蕁麻疹や咳など深刻なアレルギー症状が起きることです。特に小さな子どもは反応が多く、深刻な事態につながりかねません。

アレルギー反応の原因となる食品は数多くありますが、「食品表示法」では28品目をピックアップして「特定原材料等」と表現します。このうち8品目(えび、かに、くるみ、小麦、そば、卵、乳、落花生)は「特定原材料」と呼ばれ、その重要性から表示が義務付けられています。アレルギーの当事者はこの表示を見ることで安心安全に食べることができるかを判断しているのです。(残る20品目は「特定原材料に準ずるもの」とされ表示は「推奨(任意)」です。(2)

 

3.ピクトグラム活用のメリットと課題

しかし、小型なパッケージは栄養成分やカロリーなどの情報、加えてメーカー独自のレシピやキャンペーンなど様々な情報が「詰め込み状態」になっていることも多く、見やすいものばかりではありません。いわばメーカーと生活者の間に「壁」がある状態で、このままでは大切なアレルギー表示が埋もれ、見落としてしまう可能性もあります。

それを防ごうと、メーカーの中には簡単なアイコンや図を使った「ピクトグラム」(pictogram)を活用するケースがあります。私たち一般社団法人ユニバーサルコミュニケーションデザイン協会(UCDA)がアレルギーの症状を持つ方々に実施したヒアリング調査では、ピクトグラムであれば文字を読むよりも情報を受け取りやすいという意見や、「落花生」と漢字が読めない子どもであっても「落花生のピクトグラム」を見れば特定原材料であることに気が付きやすいという意見もありました。単に文字で示すよりも情報が伝わりやすいのです。

しかし現状では各メーカーが独自に開発したピクトグラムが多く、同じ特定原材料を扱っていても大きく見た目が異なったり、絵柄から食品を想起することが難しいものも存在します。また、あるメーカーは「特定原材料が含まれている」ことを示すピクトグラムを使う一方で、別のメーカーは「含まれていない」ことを示すピクトグラムを表示しており、これも生活者を混乱させる要因と指摘する声もありました。このままでは安心で安全な食品選択が難しい状況です。(3)

 

4.ピクトグラムの活用事例

アレルギー表示のピクトグラム活用事例を紹介します。

調査を続けていくと、食物アレルギーのピクトグラムに統一のルールや基準がなく、ユニバーサルデザインや「わかりやすさ」に配慮して開発されたものはあまり研究が進んでいないことがわかりました。

そこでUCDAと株式会社電通が共同で「わかりやすさ」を客観的・科学的に検証したピクトグラムのデザイン開発に取り組みました。デザインというと職人的でクリエイティビティ(創造性)が重要なイメージがありますが、実は科学的に検証(評価)することが可能なのです。

この検証は東京電機大学理工学部の矢口博之教授の協力を得て、子どもから高齢者、アレルギーの当事者まで延べ1000名以上の生活者が参加しました。(4)
デザインの妥当性、不鮮明な状態での視認性などを科学的に調査してデザインを修正し、再び調査を繰り返す「人間中心設計」(5)の考えに基づいて完成したピクトグラムは「みんなのピクト」と名付けられ、2023年4月から消費者庁をはじめ各所に無償提供しています。(6)

 

5.わかりやすさというパラメータ 〜「情報の非対称性」解消を〜

市場には、ピクトグラムの他にもマトリクス表を用いて特定原材料を一覧で示すタイプや、丸バツで使用有無を示すタイプなど各社が工夫を凝らしています。これらのことからわかるのは、生命や健康に直結する食や医薬に関わる情報は「きれいでかっこいい」よりも、「見やすくわかりやすい」こと(=ユニバーサルコミュニケーションデザイン)が重要だという点です。

昨今、食生活のあり方と共にECサイトの普及など購入方法も多様化し、生活者にはパッケージの情報を正しく読み取り、理解して判断する力が求められています。

しかしこれにはメーカー各社の努力が欠かせません。売り手であるメーカー側が持っている情報を100とすれば、専門知識のない一般の生活者がこれを全て理解するのは困難です。いわゆる「情報の非対称性」と呼ばれる不均衡な状態は、生活者が正しい選択ができず、モラルハザードや損害へと直結しかねません。これからの時代、私たちが食品を選ぶときは「パッケージの情報のわかりやすさ」がメーカーから生活者への配慮を示すパラメータとしても有効かもしれません。

 

 

参考資料

(1)令和4年度食品表示に関する消費者意向調査(消費者庁食品表示企画課)

(2) 食物アレルギー表示に関する情報(消費者庁)

(3)食物アレルギーの原因となる特定原材料の使用状況を示す視認性の高いピクトグラムの研究 佐藤潜一,矢口博之,植田憲二,森下洋平 画像関連学会連合会 第6回秋季大会,2019年

(4) ユニバーサルデザインに対応した食品ピクトグラムの開発 矢口博之, 佐藤潜一, 植田憲二, 森下洋平 デザイン学研究・作品集 (25) 92-97 2020年3月

(5) ISO 9241-210:2010

(6) みんなのピクト | 第三者認証を取得した唯一のピクトグラム

 

森下洋平
一般社団法人ユニバーサルコミュニケーションデザイン協会(UCDA)業務推進局局長/UCD研究所副所長
武蔵野美術大学卒業後、広告会社のクリエイティブディレクターを経て2015年より現職。
保険や金融、パッケージ類を中心にデザイン評価と改善業務に従事。
UCDA認定1級プロデューサー、HCD-Net認定人間中心設計専門家。
 

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