もくじ
- ビタミンB1とは?
- ビタミンB1の損失について
- ビタミンB1の不足と欠乏症
- ビタミンB1の過剰摂取と過剰症
- 治療薬としてのビタミンB1
- ビタミンB1の摂取状況と摂取基準
- ビタミンB1を多く含む食品
- 栄養機能食品としての関連情報
- 関連情報
ビタミンB1とは?
ビタミンB1 (チアミン) は、1910年に鈴木梅太郎によって米ぬかから発見された水溶性のビタミンです (1) 。天然にはチアミン1リン酸 (ThMP) 、チアミン2リン酸 (ThPPまたはThDP) 、チアミン3リン酸 (ThTP) の3種類のリン酸エステルが存在します。これら3種類のビタミンB1のリン酸エステル体は、摂取するとビタミンB1となって吸収され、生体内で再びリン酸化されます。体内では主にチアミン2リン酸の形で存在し、糖質および分岐鎖アミノ酸代謝における酵素 (トランスケトラーゼ、ピルビン酸脱水素酵素、α-ケトグルタル酸脱水素酵素) の補酵素として働きます (1) (2)。
ビタミンB1の損失について
貝類、わらびやぜんまいなどの山菜、コイやフナなどの淡水魚には、ビタミンB1を分解し生理活性を消失させてしまう酵素であるチアミナーゼ (アノイリナーゼともいいます) が含まれています (3) (4) (5) 。チアミナーゼは加熱することによって活性を失いますが、含有する食品を十分に加熱しないで摂取した場合、消化管内でチアミンが分解され損失が起こります (3) (6) 。また、ビタミンB1は酸性では安定ですが、アルカリ性には不安定です (2) 。高温による影響も受けやすいため、長時間の加熱は調理損耗を招きます (7) 。
ビタミンB1の不足と欠乏症
ビタミンB1不足は、食事からの摂取が長期にわたり不足した時や、糖質の多い食品やアルコールを多量に摂取した時など、ビタミンB1の需要が高まると起こりやすくなります。 ビタミンB1は糖質の代謝に関与するため、不足すると糖質を主なエネルギー源としている神経や脳に影響が現れます。精白米を常食している東洋人では脚気、アルコールを多飲する西洋人ではウェルニッケ脳症などが見られます (1) 。脚気の症状には、全身倦怠・四肢の知覚障害・腱反射消失・心悸亢進・心拡大があります (1) 。ウェルニッケ脳症の症状には、眼球運動麻痺・歩行運動失調・意識障害があり、慢性化するとコルサコフ症という精神疾患に移行します (1) 。
*ビタミンB1を多く含む食品はこちらをご覧ください。
ビタミンB1の過剰摂取と過剰症
食事やサプリメントによる、ビタミンB1の過剰摂取についての悪影響は報告されていません。しかし、非経口的摂取により、まれに過敏症を引き起こすという報告があります (1) 。
治療薬としてのビタミンB1
神経痛・筋肉痛・関節痛・末梢神経炎・末梢神経麻痺・心筋代謝障害といった疾患のうち、ビタミンB1 の欠乏または代謝障害が関与すると推定される場合に、ビタミンB1 やビタミンB1 誘導体が治療薬として用いられることがあります。医薬品としての成分名は「塩酸チアミン」「チアミンジスルフィド」などです。これらの治療薬に対して、過敏症の既往歴がある患者でショック・発疹等が見られるときがあります (8) 。
ビタミンB1の摂取状況と摂取基準
2019 (令和元) 年の国民健康・栄養調査では男性で平均1.03 mg/日、女性で平均0.87 mg/日摂取していました (9) 。
ビタミンB1はエネルギー産生に深くかかわるため、ビタミンB1の摂取の基準は、エネルギー消費量に対する必要量として算出されています。基準で示される数値は、身体活動レベルⅡ(座位中心の仕事だが、職場内での移動や立位での作業、通勤・買い物での歩行、家事、軽いスポーツのいずれかを含む)として示されています。また、欠乏症である脚気を予防するための最小必要量ではなく、尿中にビタミンB1の排泄量が増大し始める摂取量(体内飽和量)から算定されています。各年齢別のビタミンB1の食事摂取基準 (日本人の食事摂取基準2020年版) は以下の通りです (10) 。
ビタミンB1の食事摂取基準 (mg/日) 1,2
性別 | 男性 | 女性 | ||
年齢等 | 推奨量(RDA) | 目安量 (AI) | 推奨量(RDA) | 目安量 (AI) |
0~5 (月) | – | 0.1 | – | 0.1 |
6~11 (月) | – | 0.2 | – | 0.2 |
1~2 (歳) | 0.5 | – | 0.5 | – |
3~5 (歳) | 0.7 | – | 0.7 | – |
6~7 (歳) | 0.8 | – | 0.8 | – |
8~9 (歳) | 1.0 | – | 0.9 | – |
10~11 (歳) | 1.2 | – | 1.1 | – |
12~14 (歳) | 1.4 | – | 1.3 | – |
15~17 (歳) | 1.5 | – | 1.2 | – |
18~29 (歳) | 1.4 | – | 1.1 | – |
30~49 (歳) | 1.4 | – | 1.1 | – |
50~64 (歳) | 1.3 | – | 1.1 | – |
65~74 (歳) | 1.3 | – | 1.1 | – |
75以上 (歳) | 1.2 | – | 0.9 | – |
妊婦 (付加量) | +0.2 | – | ||
授乳婦 (付加量) | +0.2 | – |
推奨量(RDA,recommended dietary allowance)
ある性・年齢階級に属する人々のほとんど (97~98%) が1日の必要量を充たすと推定される1日の摂取量。
目安量 (AI,adequate intake)
ある性・年齢階級に属する人々が、ある一定の栄養状態を維持するのに十分な量。
(特定の集団において不足状態を示す人がほとんど観察されない量)
1:チアミン塩化物塩酸塩 (分子量=337.3) の重量として示した。
2:身体活動レベルⅡの推定エネルギー必要量を用いて算定した。
ビタミンB1を多く含む食品
ビタミンB1は豚肉や未精製の穀類、豆類などに多く含まれます。
主な食品中のビタミンB1含有量は以下の通りです (11) 。
植物性食品
食品名 | 1食あたり の重量(g) |
ビタミンB1(mg) | |
1食あたり | 100gあたり | ||
玄米めし | 150 | 0.24 | 0.16 |
発芽玄米めし | 150 | 0.20 | 0.13 |
マカロニ・スパゲッティ (乾) | 100 | 0.19 | 0.19 |
絹ごし豆腐 | 150 | 0.17 | 0.11 |
スイートコーン (電子レンジ) | 100 | 0.16 | 0.16 |
木綿豆腐 | 150 | 0.14 | 0.09 |
そらまめ (ゆで) | 60 | 0.13 | 0.22 |
さつまいも (蒸し) | 100 | 0.11 | 0.11 |
そば (ゆで) | 200 | 0.10 | 0.05 |
ながいも (生) | 75 | 0.08 | 0.10 |
(「日本食品標準成分表2020年版 (八訂)」のデータより引用)
動物性食品
食品名 | 1食あたり の重量(g) |
ビタミンB1(mg) | |
1食あたり | 100gあたり | ||
豚ヒレ(焼き) | 100 | 2.09 | 2.09 |
豚ロース 脂身つき(焼き) | 80 | 0.72 | 0.90 |
豚もも 皮下脂肪なし(焼き) | 60 | 0.71 | 1.19 |
うなぎ(かば焼き) | 80 | 0.60 | 0.75 |
豚ひき肉 (焼き) | 50 | 0.47 | 0.94 |
豚ばら (焼き) | 60 | 0.34 | 0.57 |
たらこ (生) | 40 | 0.28 | 0.71 |
子持ちカレイ (水煮) | 100 | 0.25 | 0.25 |
べにざけ (焼き) | 80 | 0.22 | 0.27 |
ぶり (焼き) | 80 | 0.19 | 0.24 |
(「日本食品標準成分表2020年版 (八訂)」のデータより引用)
栄養機能食品としての関連情報
ビタミンB1は基準値を満たした場合に栄養機能食品として表示することができます。
- 下限値:0.36 mg、上限値:25 mg
- 栄養機能表示
「ビタミンB1は、炭水化物からのエネルギー産生と皮膚や粘膜の健康維持を助ける栄養素です。」 - 注意喚起
「本品は、多量摂取により疾病が治癒したり、より健康が増進するものではありません。1日の摂取目安量を守ってください。」
栄養機能食品の表示に関する基準の詳細についてはこちらの資料をご参照ください。
関連情報
- ビタミンB1の有効性について、個々の研究結果は「素材情報データベース<有効性情報>【ビタミンB1 (チアミン) 】」をご覧下さい。
- ビタミンについての解説:一覧
- ミネラルについての解説:一覧
参考文献
(1) ビタミンの辞典:朝倉書店
(2) 生化学辞典 第4版:東京化学同人
(3) 専門領域の最新情報 最新栄養学:建帛社
(4) 栄養生化学辞典:朝倉書店
(5) オックスフォード食品・栄養学辞典:朝倉書店
(6) ヒューマン・ニュートリション 第10版:医歯薬出版
(7) ロス 医療栄養科学大事典
(8) 日本薬局方解説書:廣川書店
(9) 令和元年 国民健康・栄養調査報告
(10) 日本人の食事摂取基準 2020年版
(11) 日本食品標準成分表2020年版 (八訂)