サラシアはタイ、インドネシアなどの東南アジアやインド、スリランカなどの南アジア一帯に広く分布する植物で、その根や幹を抽出したお茶は地域住民により伝統的に飲用されてきた。サラシアエキスは、食事由来の糖質の消化酵素であるα-グルコシダーゼの活性を阻害することが知られており、その主たる活性成分としてネオコタラノールが報告されている。ネオコタラノールはスルホニウム化合物の一種で、サラシアに特有の成分である。
【関与成分の構造式】 |
食事由来のデンプンの消化・吸収では、α-アミラーゼとマルターゼが主要な働きを担っている。α-アミラーゼにより分解されたデンプンは、その大半が二糖類のマルトースとなる。マルトースは小腸上皮細胞に存在するマルターゼにより分解され、グルコースとなって体内に吸収される (2008225258) 。In vitro実験にて、ネオコタラノールはマルターゼ、スクラーゼ、イソマルターゼ等のα-グルコシダーゼ阻害活性を有することが確認されている (PMID:20981499) 。以上より、ネオコタラノールは、食事由来の糖質の消化酵素であるα-グルコシダーゼの活性を阻害することで、糖質の吸収を抑制し食後血糖値の上昇をゆるやかにすると考えられる。
(2008225258) 日本臨床. 2008:66(増刊3);81-84. (PMID:20981499) J Nat Med. 2011:65(1);142-148.
高速液体クロマトグラフ質量分析法
(PMID:20981499) J Nat Med. 2011:65(1);142-148.
研究1 サラシアエキス末を配合したカプセル (ネオコタラノールとして当該食品摂取目安量の1.5倍もしくは6倍量) またはプラセボを、健常者13名、空腹時血糖値正常高値者9名、糖尿病境界型8名、糖尿病型4名の成人男女計34名を3群に分けて、それぞれ12週間毎食前に1日3回摂取させた。結果、血液検査、尿検査、被験者の消化器症状 (軟便・下痢等) 等に変化が散見されたものの、その程度は軽微であり医師の診断により臨床上問題とはならないと判断された。よって、サラシアエキス末のα-グルコシダーゼ阻害活性に起因する軟便・下痢等が被験者の体質等によっては発生する可能性があるが、特段の問題とはならないと考えられ、サラシアエキス末過剰量の長期摂取における安全性が確認された (1) 。 研究2: 空腹時血糖値正常高値および糖尿病境界型 (空腹時血糖値が100 mg/dL以上、126 mg/dL未満) の成人男女42名を2群に分け、プラセボ対照二重盲検試験を行った。被験食品は毎食前に1日3回摂取することとし、12週間摂取させた。結果、血液検査等で有意な変動が散見されたが、いずれも軽微または生理的変動の範囲内であり、尿検査や消化器症状等の自覚症状においても臨床上問題となる有害事象は認められなかった。よって、当該食品の長期摂取における安全性が確認された (2016251065) 。 研究3: 空腹時血糖値正常高値および糖尿病境界型 (空腹時血糖値が100 mg/dL以上、126 mg/dL未満) の成人男女41名を2群に分け、プラセボ対照二重盲検試験を行った。被験食品は、当該食品の摂取目安量の5倍量とし、4週間毎食前に摂取させた。結果、血液検査および尿検査等で有意な変動が散見されたが、いずれも軽微または生理的変動の範囲内であった。自覚症状について、摂取期間中にサラシアエキス末配合食品摂取群の2名に腹部膨満感、および1名に下痢・軟便が発生したが、医師により、程度が軽度で日常生活に支障をきたす程のものではないため問題ないと診断された。よって、当該食品の過剰摂取における安全性が確認された (2016251065) 。
(1) 社内報告書 (2016251065) 薬理と治療. 2016:44(3);399-408.
研究1遺伝毒性試験 サラシアエキス末で細菌 (5菌株) を用いた復帰突然変異試験を行った結果、TA98の1菌株においてS9非存在下の最高用量 (5,000 μg/plate) のみで、陰性対照群の2倍を僅かに超えるコロニー数の増加を認めたものの、S9存在下では認めなかった。さらに染色体異常試験および小核試験を行った結果、いずれも陰性であったことから、サラシアエキス末には遺伝毒性はないものと考えられた (1) 。 研究2:単回経口投与試験 ラットを用いたサラシアエキス末の強制経口投与 (5 g/kg) による急性毒性試験の結果、死亡例はなく、一般状態、体重推移および剖検結果に問題となる所見を認めなかった。また同条件にて再度試験を実施し、投与後経時的に血糖値とインスリンを測定したところ、低血糖傾向は認められなかった (2) 。 研究3:90日間経口投与試験 ラットを用いたサラシアエキス末の強制経口投与 (1,000、2,000 mg/kg) における90日間反復投与毒性試験の結果、摂餌量や血液検査値における有意な変動が散見されたが、軽微なものでありサラシアエキス末の毒性を示すものではないと考えられた。その他一般状態、血液学的検査、血液生化学検査、尿検査、体重推移、剖検結果、および組織学的検査等に問題となる所見を認めなかった (3) 。 研究4:180日間経口投与試験 ラットを用いたサラシアエキス末の強制経口投与 (1,000、2,000 mg/kg) における180日間反復投与毒性試験の結果、サラシアエキス末のα-グルコシダーゼ阻害活性に起因すると考えられる体重の増加抑制が認められた。その他一般状態、血液学的検査、血液生化学検査、剖検結果、および組織学的検査等に、サラシアエキス末の毒性を示す所見を認めなかった (4) 。 研究5:繁殖試験 ラットを用いたサラシアエキス末の強制経口投与 (500、1,000、2,000 mg/kg) における1世代繁殖毒性試験を行った。F0の雄には交配8週間前から交配終了まで、F0の雌には交配2週間前からF1の離乳まで、それぞれ投与を行った。結果、F0の繁殖機能やF1の生育等に問題となる所見を認めなかった (PMID20920544) 。
(1) 社内報告書 (2) 社内報告書 (3) 社内報告書 (4) 社内報告書 (PMID:20920544) Food Chem Toxicol. 2011:49(1);57-60.
研究1 当該食品 (試験食、ネオコタラノールとして0.221 mg) を用いて、空腹時血糖値正常高値および糖尿病境界型 (空腹時血糖値100 mg/dL以上、126 mg/dL未満) の成人男女を対象に、プラセボ食を対照とした二重盲検およびクロスオーバーによる米飯負荷試験を行った。結果、試験食摂取時による糖負荷30分後の血糖値の上昇抑制と血糖値曲線下面積の減少を認め、糖の吸収を抑制したと考えられた。血清インスリンについても、血糖値と同様な上昇抑制効果を認めた。 また同試験において、血糖値が最大となった食後1時間値について、日本糖尿病学会が定める境界型の補助診断基準である180 mg/dLを境に層別解析を行ったところ、180 mg/dLより高い群において被験者全体と比較してより顕著な効果が認められたため、当該食品の境界型の者に対する有効性は明らかであると考えた。
(2010330488) 薬理と治療. 2010:38(6);545-550.
研究1 サラシアエキス末の食後血糖上昇抑制効果の作用機序について検討した。マウスに対してデンプンを負荷した場合にはサラシアエキス末の血糖値上昇抑制効果が発揮されたのに対し、グルコース負荷の場合には効果が認められなかった。このことから、サラシアエキス末はマルターゼなどの糖質消化酵素を阻害することで食後血糖上昇抑制効果を発揮すると考えられた。
(PMID2573456) Nutrients. 2015:7(3);1480-1493.