関与成分である「ラクトトリペプチド」は、Valine-Proline-Proline(VPP)、Isoleucine-Proline-Proline(IPP)という、アミノ酸3残基よりなる2種類のペプチド(1)の総称である。 「ラクトトリペプチド」は、牛乳に含まれるタンパク質のひとつであるカゼインに由来し、もともとカゼインのアミノ酸配列の中に存在しているものである。「ラクトトリペプチド」は、微生物酵素の働きによりカゼインから切り出され、水溶性のペプチドとして生成されるが、哺乳類の消化管酵素によっては切り出されず、生成されないものと考えられている(2)。
アンジオテンシン変換酵素 (ACE) は、アンジオテンシンIを昇圧物質であるアンジオテンシンIIに変換することから、血圧調整に重要な役割を果たしている。2種類のトリペプチド (VPP、 IPP) からなる「ラクトトリペプチド」は、ACE阻害物質として、Lactobacillus helveticusとSaccharomyces cerevisiaeを含むスターターを用いた発酵乳より単離、同定された(1)。高血圧自然発症ラット (以下、SHR) に対して「ラクトトリペプチド」を含む発酵乳を添加した飼料および基礎飼料 (対照) を長期摂取させたところ、発酵乳群の血圧上昇は抑制され、対照群と比較して腹部大動脈のACE活性が低下した(3)。さらに、SHRおよびWistar-Kyotoラット (以下、WKY) に対して、「ラクトトリペプチド」を含む発酵乳および生理食塩水 (対照) を単回経口投与し、6時間後に各組織のACE活性を測定したところ、SHRの腹部大動脈のACE活性はWKYと比較して高く、発酵乳を投与したSHRの腹部大動脈のACE活性は生理食塩水を投与したSHRと比較して低かった。また、各組織からの「ラクトトリペプチド」の検出を試みたところ、発酵乳を投与したSHRの腹部大動脈より両ペプチドが検出された(4)。以上の結果より、「ラクトトリペプチド」は消化酵素による分解を受けずに吸収され、そのままの形で腹部大動脈に到達し、亢進したACE活性を抑制することにより、血圧降下作用をもたらすものと考えられる。
(1) J Dairy Sci., 78, 777-783 (1995) (2) J Agric Food Chem., 56(3), 854-858 (2008) (3) Biosci Biotech Biochem., 60(3), 488-489 (1996) (4) Antihypertensive., 126, 3063-3068 (1996)
高速液体クロマトグラフ質量分析計(LC/MS)にて分析を行う。 試料を遠心分離、フィルター等で前処理を行い試験溶液とする。定性試験として、試験溶液とラクトトリペプチド標準溶液を分析し、質量数及びリテンションタイムにて同定する。定量試験としては、標準溶液により事前に求めた検量線に基づき、試験溶液中に含まれるラクトトリペプチド量を所定の計算式により求める。
研究1: 正常血圧者および軽症高血圧者43名を対象として、プラセボを対照とした二重盲検試験を実施した。被験者は無作為に2群に振り分けられ、試験飲料 (VPP:1.47 mg、IPP:1.60 m含有) あるいはプラセボ飲料を毎食時に1本 (200 mL) ずつ、合計1日3本、4週間連続摂取した。これは1日摂取目安量の3倍量に相当する。その結果、急激な血圧低下や過度の血圧低下は認められず、脈拍、血液検査および尿検査において異常変動は認められなかった(1)。 研究2: 軽症高血圧者および正常高血圧者144名を試験群、プラセボ群の2群に無作為に振り分け、それぞれ試験飲料(VPP:1.47 mg、IPP:1.60 m含有)、プラセボ飲料を1日1本、12週間連続摂取した。その結果、血液検査および尿検査において異常変動は認められず、試験品に関係する有害事象は見られなかった(2)。
(1) 健康・栄養食品研究、7(4), 1-14 (2004) (2) J Med Food., 8(4), 423-430 (2005)
研究1: チャイニーズ・ハムスターの培養細胞を用いる染色体異常試験(1) 研究2: マウスを用いる小核試験(1) 研究3: ラットにおける単回経口投与毒性試験(1) 研究4: ラットにおける13週間反復経口投与毒性試験(1)
(1) 社内資料 その他の資料: J Dairy Sci., 78, 1253-1257 (1995).
研究1: 投薬治療を受けていない軽症高血圧者および正常高値血圧者144名対象としたプラセボ対照比較試験において、「ラクトトリペプチド」を含む野菜果実飲料(1本200 mL、試験食:VPP:1.47 mg、IPP:1.60 m含有) を1日1本、12週間摂取させたところ、試験群において摂取後 6、8、10、12 週目に収縮期血圧、8、10、12 週目に拡張期血圧の低下が認められた(1)。
(1) J Med Food., 8(4), 423-430 (2005)
研究1: 酸乳 (5 mL/kg体重) および酸乳に相当するACE阻害活性量のVPP (0.6 mg/kg体重) 、IPP (0.3 mg/kg体重) を高血圧自然発症ラット (SHR) へ単回経口投与すると、投与6~8時間後に血圧値は低下した。投与24時間後には、投与前の血圧値に戻っていた。これら2種のトリペプチドの血圧降下作用は、5 mg/kg体重まで用量依存的であった(1)。 研究2: SHRに7週齢より「ラクトトリペプチド」を含む酸乳を添加した飼料を自由摂取させた。酸乳群では13週齢より血圧上昇が抑制される傾向が見られ、さらに2.5%酸乳群では対照群に比べ21週齢以降に低い血圧を示した。23週齢において2.5%酸乳群と対照群の各臓器アンジオテンシン変換酵素 (ACE) 活性を比較したところ、対照群に比べ2.5%酸乳群の腹部動脈ACE活性が低下していた(2)。 研究3: 23週齢の高血圧自然発症ラット (SHR) および正常血圧Wistar-Kyotoラット (WKY) の腹部大動脈、肺、腎臓、心臓、脳を摘出し、各部位のACE活性を比較すると、SHRではWKYに比べ腹部大動脈ACE活性が10倍亢進していた。酸乳を投与すると、SHRでは、腹部大動脈ACE活性は減少した。一方、他の部位では変化なかった。また、WKYに酸乳を投与し同様にACE活性を測定したが、いずれの部位にも変化はなかった。VPP、 IPPペプチドは、酸乳を投与したSHRの腹部大動脈の熱処理可溶化画分から検出された。一方、他の部位またはWKYのいずれの部位からも、両トリペプチドは検出されなかった(3)。
(1) J Dairy Sci, 78, 1253-1257 (1995) (2) Biosci. Biotech. Biochem., 60, 488-489 (1996) (3) J. Nutr., 126, 3063-3067 (1996)