注意!(1) データの無断転用,引用、商用目的の利用は厳禁.(2) 以下の情報は現時点(最終更新日時)で調査できた素材の科学論文情報です. 実際に販売されている商品に以下の素材が含まれているとしても,その安全性・有効性がここに紹介した情報と一致するわけではありません.(3) 詳細情報として試験管内・動物実験の情報も掲載してありますが,この情報をヒトに直接当てはめることはできません.有効性については,ヒトを対象とした研究情報が重要です.(4) 医療機関を受診している方は,健康食品を摂取する際に医師へ相談することが大切です.「健康食品」を利用してもし体調に異常を感じたときは、直ぐに摂取を中止して医療機関を受診し,最寄りの保健所にもご相談下さい.
項 目
内 容
名称
セイヨウトチノキ (マロニエ) [英]Horse chestnut [学名]Aesculus hippocastanum L.
概要
セイヨウトチノキは、別名マロニエとして知られる植物である。利用部位は樹皮、葉、花、クリに似た果実であるが、日本では果実は原則として医薬品の扱いである。 ●有効性 俗に、「静脈を強化し静脈瘤による症状を緩和する」と言われているが、科学的に検証されたのは規格化された種子エキスのみであり、静脈の疾患(痛み、足のだるさ、張り、かゆみ、浮腫)に対して、おそらく有効である。 ●安全性 未加工のものを摂取することは危険であるため、有害物質を除去した加工エキスを使用すべきである。また、腎臓、肝機能障害のある人は使用を避ける。 ▼他の素材はこちら
法規・制度
■食薬区分 ・種子:「専ら医薬品として使用される成分本質 (原材料) 」に該当する。 ・樹皮、葉、花、芽:「医薬品的効能効果を標ぼうしない限り医薬品と判断しない成分本質 (原材料) 」に該当する。
成分の特性・品質
主な成分・性質
・サポニン[アエスシンaescin (escin):樹皮には含まない]、フラボノイド、クマリン、クマリン配糖体[エスクリンesculin (aesculin)]、タンニンを含む。 ・別名マロニエ。25 mほどの高さの落葉樹。バルカン半島からヒマラヤまでの広い地域でみられる。16世紀にヨーロッパに紹介された。春の終わりに白い花が直立した穂状花序につき、秋には球状の線褐色の棘状の果実の中に1〜3 cmの光沢のある赤茶の種がある。使用部位は種子、枝の樹皮、葉。
分析法
-
有効性
ヒ ト で の 評 価
循環器・呼吸器
一般情報 ・規格化(16-20% aescin)されたセイヨウトチノキの種子エキスを静脈の疾患 (痛み、足のだるさ、張り、かゆみ、浮腫) に用いる場合、おそらく有効である (94) 。 RCT ・慢性深部静脈不全による静脈浮腫を伴う患者40名 (試験群20名、平均53±9歳、オーストリア) を対象とした二重盲検無作為化プラセボ対照試験において、セイヨウトチノキの標準抽出物369〜412 mg/日を6週間摂取させたところ、浮腫の低減が認められた (PMID:1621440) 。
消化系・肝臓
調べた文献の中に見当たらない。
糖尿病・内分泌
生殖・泌尿器
脳・神経・感覚器
免疫・がん・炎症
骨・筋肉
発育・成長
肥満
その他
一般情報 ・ドイツなどヨーロッパ諸国では、外傷後、手術時、手術後の脳浮腫治療用および他の外科治療用にアンプル入りエスシン静脈内注射が医師により臨床使用されている (23) 。
参 考 情 報
試験管内・ 動物他での評価
安全性
危険情報
<一般> ・適切に短期間摂取する場合、おそらく安全である (94) 。 ・エスクリンを含むため、生の果実、種子、樹皮、花、葉の摂取は危険である。中毒症状として、神経筋肉の痙縮、衰弱、散瞳、嘔吐、下痢、抑うつ、麻痺、昏迷、死に至ることがある (20) (23) (94) 。 ・エスクリン除去した規格化種子エキスは有害事象が出にくいと思われるが、このエキスを摂取した人で、めまい、悪心、頭痛、かゆみが報告されている。胃腸の不調やかゆみを起こす可能性がある。エキスを静脈注射した場合に肝腎毒性が現れた症例があった (23) (94) 。エスシンは静脈注射でアナフィラキシーを起こすことがある (94) 。 ・種子と樹皮は胃腸の炎症、神経障害を起こす可能性がある (94) 。 ・エスクリンは抗凝血作用をもつため、出血などのリスクが高まることがある (94) 。 ・腎機能障害、肝機能障害のある人は使用を避ける (94) 。 ・種子は、国内では「専ら医薬品として使用される成分本質 (原材料)」に区分される (30) ため、食品に使用することは認められていない。 <妊婦・授乳婦> ・生の種子、樹皮、花、葉の摂取は妊婦、授乳婦に危険である (94) 。エキスの安全性についてのデータも十分でないので、使用は避ける (94) 。 <小児> ・生の種子、樹皮、花、葉の摂取は小児に危険である (94) 。葉と小枝のお茶で中毒が報告されている。葉のエキスで、筋肉注射した際に胆汁うっ滞性肝機能障害が一例報告されている (58) 。 <被害事例> ・腎血管筋脂肪腫 (AML) のある46歳女性 (アイルランド) が、セイヨウトチノキ種子抽出物を摂取し (量、期間不明) 、致命的な腎AML出血を起こした (PMID:21310579) 。 ・32歳男性 (トルコ) が、セイヨウトチノキペースト3箱を1ヶ月半のうちに摂取したところ、1週間にわたって呼吸困難を生じ、医療機関を受診。過換気、起坐呼吸、胸部聴診で副雑音、胸部X線検査で心嚢液の貯留、血液検査でALTおよびCRPの上昇が認められた。セイヨウトチノキの摂取を中止し投薬治療を開始したが、心タンポナーデを生じたため心膜穿刺を実施、加療により回復した。因果関係評価 (Naranjo) は、“probable”であったため、セイヨウトチノキの摂取が原因と考えられる急性滲出性心膜炎と診断された (PMID:27141926) 。
禁忌対象者
医薬品等との 相互作用
<動物・試験管内> ・動物実験 (ラット) において、セイヨウトチノキの種子から抽出したアエスシンの経口摂取は、CYP2E1に影響は与えなかったが、肝臓の遺伝子発現亢進を伴うCYP1A2の活性化、遺伝子発現抑制を伴うCYP2C9、CYP3A4の活性阻害を認めた (PMID:24252494) 。 ・in vitro試験 (ヒトCYP3A4 タンパク、Caco-2細胞) において、セイヨウトチノキ抽出物はCYP3A4、P糖タンパク質の活性を阻害した (PMID:18331390) 。 ・in vitro試験 (ヒト肝ミクロソーム) において、セイヨウトチノキの水抽出物はCYP1A2、CYP2B6、CYP2C8、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6活性に影響を与えなかったが、CYP2A6、CYP2E1、CYP3A4活性を阻害した。メタノール抽出物はCYP1A2、CYP2A6、CYP2C8、CYP 2C9、CYP2D6活性に影響を与えなかったが、CYP2B6、CYP2C19、CYP2E1、CYP3A4活性を阻害した (PMID:20218935) 。 ・in vitro試験 (ヒト酵素) において、アエスシンは CYP1A2、CYP2D6活性に影響を及ぼさなかったが、CYP2C9、CYP2C19、CYP3A4活性を阻害した (PMID:12127912) 。 <理論的に考えられる相互作用> ・すべての部位は抗凝血作用のあるハーブやサプリメント、抗血液凝固薬との併用で出血傾向を高めることが考えられる (94) 。 ・種子と樹皮は血糖低下作用があるので、同じ作用をもつハーブや糖尿病治療薬との併用で、それらの作用に影響を与えることがある (94) 。 ・すべての部位と他の食品との相互作用や臨床検査値に対する影響は知られていない (94) 。 ・糖尿病の人が使用する際は、血糖値をよくモニターすること (94) 。
動物他での 毒性試験
LD50 (半数致死量) ・セイヨウトチノキの葉および果実の抽出物を投与:ラット経口 2,150 mg/kg、マウス経口 990 mg/kg、ウサギ経口 1,530 mg/kg、モルモット経口 1,120 mg/kg (91)。
AHPAクラス分類 及び勧告
・種子:クラス1 (22) 。
総合評価
・生の果実は食べると危険である。量によっては致死的である。生の種子、樹皮、花、葉の摂取は危険である。 ・果実は、エスクリンを除いた標準規格品であれば安全性が示唆されている。しかし、葉、花、若芽および種子は有毒である。中毒症状としては、神経筋肉の痙縮、衰弱、散瞳、嘔吐、下痢、抑うつ、麻痺および昏迷などがある。 ・種子、樹皮は消化管に炎症のある人には使用禁忌。 ・種子は、国内では「専ら医薬品として使用される成分本質 (原材料)」に区分されるため、食品に使用することは認められていない。
(注:下記の内容は、文献検索した有効性情報を抜粋したものであり、その内容を新たに評価したり保証したりしたものではありません。) ・規格化されたセイヨウトチノキの種子エキスは、静脈の疾患(痛み、足のだるさ、張り、かゆみ、浮腫)に対して、おそらく有効である。
参考文献
(20) ハーブ大百科 誠文堂新光社 デニ・バウン (23) 天然食品・薬品・香粧品の事典 朝倉書店 小林彰夫ら 監訳 (30) 「医薬品の範囲に関する基準」(別添2、別添3、一部改正について) (58) The Complete German Commission E Monographs (PMID:1621440) Vasa. 1992;21(2):188-92. (PMID:10482846) J Allergy Clin Immunol. 1999 Sep;104(3 Pt 1):681-7. (91) Registry of Toxic Effects of Chemical Substances (RTECS). (94) Natural Medicines (PMID:21310579) J Emerg Med. 2012 Dec;43(6):e401-3. (PMID:24252494) J Ethnopharmacol. 2014 Jan 10;151(1):583-90. (PMID:18331390) Basic Clin Pharmacol Toxicol. 2008 May;102(5):466-75. (22) メディカルハーブ安全性ハンドブック 第2版 東京堂出版 林真一郎ら 監訳 (PMID:27141926) Am J Case Rep. 2016 May 4;17:305-8. (PMID:20218935) Xenobiotica. 2010 Apr;40(4):245-54 (PMID:12127912) Life Sci. 2002;71(13):1579-89.