専門家に聞きました 【第6回】「食と栄養による予防医学」の実践について考えてみる

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専門家に聞きました
【第6回】
「食と栄養による予防医学」の実践について考えてみる
 

早稲田大学ナノ・ライフ創新研究機構 規範科学総合研究所ヘルスフード科学部門
部門長 矢澤 一良



『健康食品を活用する際に役立つ情報や留意点』というテーマにて原稿を依頼されてしばらく考えていましたが、「その前に考えてみるべきこと」もあるのではないかと思いました。
情報獲得のノウハウやテクニックは多くの専門の先生方の出番があると思っており、それに勝るモノは持ち合わせていないと感じているので、別の視点で考えてみました。

「人生100年時代」の不安材料の1つは健康問題です。現在でも医療費のうち半分が70歳以上の高齢者によって使われていることを考えると、寿命が伸びた時に我が国の医療費はどうなるのでしょうか? メディカル・コメディカル(医療従事者・関連者)は多くのポジションが存在していますが、医療費の節減のために、またもちろん医療の質を上げるためにも、これら医療職の連携が大変重要になってきます。地球環境の変化や人口動態によっていままでにはあまり考慮されなかった疾患が蔓延する可能性もあります。直近の感染性疾患では、新型コロナウィルスやその多様な変異株の問題提起は身にしみており、一方非感染性疾患においても日本の人口動態からは自動的に起こるべくして発生する「フレイル」(「虚弱」と訳されます)が喫緊の問題となって来ています。これからは、いままで以上に病気にならないこと、病気になっても重病化させないことが重要で、そのためには、それぞれのセルフケア・セルフメディケーションの充実や健康と食への正しい情報取得をはじめとする、種々疾患に関連する「傾向と対策」をより深く考えるべき事と思っています。

平均寿命はある意味順調に延び、同時に健康寿命を延ばすためには「食と栄養による予防医学」がキーポイントになると考えています。さらに言及するならば健康寿命は延びているものの、平均寿命との差が予想以上に縮まらない事の重要性を今一度考えるべき時と思っています。すなわち平均寿命と健康寿命の差である不健康期間(平均10年以上と統計学的に明らかにされている)は、寿命が延びた分だけより深刻であるという事と捉えています。なぜなら不健康期間が高齢化しているからです。

数年後に迎える「団塊世代の後期高齢者化」による非感染性疾患発症に深く関わる「フレイル」進展に対抗する方法は、感染性疾患予防と同時に、共に「予防医学」が基本概念です。
高齢者フレイルの傾向と対策においては、プレフレイル(前虚弱)が進行すると「要支援・要介護」が必要になり、フレイルや寝たきり状態からさらに認知症など重症化になるケースも多いため、早期の予知・予防とその対策としての進行や重症化の抑制が重要です。

「フレイル」とは一般的には高齢者に生じることとして知られておりますが、より広く「フレイル」を理解するならば、子供たちの栄養バランス不良や偏食、過剰なやせ志向の女性の健康の問題、中年のメタリックシンドローム、高齢者のロコモティブシンドロームなど「オール世代でのフレイル視点」が重要であると考えています。
さらに、フレイルを臓器別・メカニズム別にアプローチする事で具体的な対策方法がより鮮明に理解できます。すなわち老化現象を疾患の始まりと理解すれば、臓器・代謝メカニズムの個人差により、また部位(臓器)により発症(進行)の程度が異なります。また感染性疾患であっても、その発症と重症化は「体内免疫力フレイル」が大変深く関わっております。個別化医療の概念を「食と栄養による予防医学」に取り込むべきです。それがセルフケア・セルフメディケーションの概念です。

ここにおいて、健康食品・機能性食品の個人の状況別の選択が必要になります。
フレイル対策の切り札は健康食品・機能性食品の有効活用であると考えていますが、「一向に縮まらない平均寿命と健康寿命の差」に関わる責任は行政のみならず、医療機関・アカデミアと民間企業からの機能性食品(特定保健用食品や機能性表示食品)の有用性・有効性の情報発信の努力不足も考えるべきかと思っています。 
企業責任のモラリティ(倫理感)とアカデミアのCOI(利益相反)を「性善説」に基づいてどこまで実践でき、発信する情報が国民の機能性食品に対する信頼性を得る事が出来るかがポイントであると考えています。
安全性・機能性に加えてその使用方法(飲み合わせ等)の情報を得た上での機能性食品の利活用は、健康維持増進や予防医学に有用と思っております。

医師の国家資格を取得するためには「栄養学」は不要であるという日本の現状では、「食と栄養による予防医学」は誰に任せれば良いのでしょうか? 海外では“Dietitian”(栄養士)と”Registered Dietitian”(管理栄養士)の社会的地位や医療現場での発言力は非常に重要視されますが、一方日本では国家資格を取得した「管理栄養士」は「国家的知的財産」とも言えるにも関わらずまだあまり重用されていないのが現状です。
さらに栄養士・管理栄養士の再教育と高度な情報を取得した有資格者の教育・育成も整って来ておりますので(例えばNR・サプリメントアドバイザーなど)、健康・予防医学や健康食品・機能性食品に関連する情報はココ(管理栄養士)にあると思っております。消費者のみなさんも健康・予防医学や健康食品・機能性食品のことで迷ったら、こうした情報を持つ専門家に相談してはいかがでしょうか。

最後に、厚生労働省の「健康的で持続可能な食環境づくり」特設サイトは有効に活用出来ると思います。



矢澤 一良(やざわ かずなが)
1972年京都大学卒業、1973年(株)ヤクルト本社・中央研究所入社、1986年(財)相模中央化学研究所入所(主席研究員)、1989年東京大学より農学博士号を授与、2002年東京水産大学大学院(客員教授)、2014年早稲田大学(研究院教授)、2019年より現職



<国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所>


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