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【第9回】食薬区分の実際と問題点

カテゴリー:専門家に聞きました
更新日:2022/09/07

もくじ

  1. はじめに
  2. 無承認無許可医薬品の指導取締りについて
  3. 食薬区分リストの扱い
  4. 食薬区分の判断の実際
  5. おわりに

 

1.はじめに

食品衛生法は食品を「すべての飲食物のうち医薬品、医薬部外品及び再生医療等製品を除いたもの」と定義しています。しかし、例えば生姜のように、医薬品としての利用がありながら、食用にも供されるものがあり、食品と医薬品の間にハッキリとした境界線を引くことは難しいものです。その中で、あたかも病気の治療に効くように謳った食品が販売されることがあると、それを信じて摂取し続けるうちに適正な医療を受ける機会が失われ、結果としてその病気を悪化させてしまうことがあります。また、医薬品として扱われるべき作用の強いものが食品として販売されることがあると、それを食品として不適正に摂取することにより健康被害が発生することもあります。このような無承認の医薬品の流通による被害を防止するため、国は食品と医薬品の境界における判断基準を示し、さらに、医薬品に該当するか否か判定した結果を食薬区分リストとして例示しています。本コラムでは、この食薬区分制度の実際と問題点について概説いたします。

 

2.無承認無許可医薬品の指導取締りについて

まず、食薬区分制度の成り立ちについて説明します。
我々の祖先は身の回りの多くのものを口に運び、味、色、におい、食感等を頼りに食べ物を見出し、同時に薬(あるいは毒)の存在を認識してきました。長年の食経験が積み重ねられたものは食料として供され、また、長い臨床経験に裏付けられたものは天然薬物として伝承されています。近代以降、食経験とは縁遠い化学合成物や微生物代謝産物が薬用資源として利用されるようになり、これら切れ味の鋭い物質が医薬品の主流となるにつれて、もはや長年の食経験や臨床経験が通用しなくなったため、国や地域が責任を持って食品と医薬品を峻別し、医薬品の製造、販売及び使用等を規制する必要が生じました。例えば現代の日本では、薬機法第2条において医薬品が定義され、食品衛生法第4条において食品が定義され、薬機法第14条を中心に各種通知等により医薬品の承認・許可等に関する薬事制度が整備されています。

一方、高度経済成長下における国民の健康志向の高まりと共に、体に対する何らかの機能や作用を期待した食品として、いわゆる健康食品がブームとなりました。その中で、健康食品が医薬品まがいの売り方をされる例、あるいは、本来医薬品として規制されるべきものが健康食品として売られる例が増加しました。つまり、法令上では医薬品と食品の判別が明確にされていても、その境界領域に存在するものの利用が増えてくると、実際にそれらを医薬品として扱うべきなのか、あるいは食品として扱っても良いものなのかという点について混乱が生じたのです。そこで国は、食品と医薬品の区別(食薬区分)の判断基準として、「無承認無許可医薬品の指導取締りについて」(昭和46年6月1日薬発第476号通知)(いわゆる46通知)に「医薬品の範囲に関する基準」を示しました。ここでは、医薬品に該当するか否かについて、成分本質(原材料)、形状及び表示された使用目的・効能効果・用法用量並びに販売方法等から総合的に判断する方法・手順が記載されています。また、その具体的な判定結果の例として、「専ら医薬品として使用される成分本質(原材料)リスト」(専医リスト)及び「医薬品的効能効果を標ぼうしない限り医薬品と判断しない成分本質(原材料)リスト」(非医リスト)が公開されました。これが前述の食薬区分リストです。

 

3.食薬区分リストの扱い

専医リストに収載されている品目は、原則的に食品として販売することができません。従って、目的のものが専医リストに収載されているかどうかは、食品を開発しようとする事業者にとっては大きな問題です。一方、専医リストに収載されていない品目は以下のように分類することができます。
① 明らかに医薬品であるもの。
② 明らかに食品であるもの。
③ 非医リストに収載されているもの。
④ これまでに食薬区分の判断を受けていないもの。

食薬区分リストの扱い食薬区分は食品と医薬品の境界領域について判断を行うものであり、アスピリンやトマトのように、それぞれ①または②に該当する品目はどちらのリストにも収載されていません。非医リストに収載されているもの(③)は、医薬品的な効能を謳わなければ食品として開発することができます。食薬区分の判断を受けていないもの(④)については、前述の46通知に示された基準に従って医薬品の該当性を事業者が判断することとなりますが、その判断がつかない場合には、都道府県を通じて国(厚生労働省医薬・食品衛生局監視指導・麻薬対策課)に判断を求めることができます。
申請された品目の医薬品該当性については、監視指導・麻薬対策課が学識経験者と協議を行った上で判断することとなっていますが、その主な協議の場は「医薬品の成分本質に関するワーキンググループ」(いわゆる食薬区分WG)となります。この判断結果に従って、必要に応じて食薬区分リストは更新され、また、既にリストに収載されている品目についても、安全性に関する新しい知見などがあれば必要に応じで見直されます。

 

4.食薬区分の判断の実際

食薬区分WGにおける医薬品該当性に関する検討の判断基準は、46通知に明確に記載されていますので、その基準に従い科学に基づいた検討の末に結論が出されます。しかし、各々の素材の特性は、文化的・歴史的背景も含めて個々に大きく異なりますので、型通りに議論が進むことばかりではありません。以下に、その判断が難しいいくつかの例を挙げることにより、食薬区分制度が抱える問題点について示します。

1)医薬品成分を含有する一般的な食品

46通知は、「専ら医薬品としての使用実態のある物」あるいは「処方せん医薬品に相当する成分を含む物であって、保健衛生上の観点から医薬品として規制する必要がある物」を「専ら医薬品」として判断するよう規定しています。つまり、そのもの自体が医療用医薬品である物、あるいは、医療用医薬品の成分を含有する物は、専ら医薬品と見なすということになります。一方で、46通知には「野菜、果物、調理品等その外観、形状等から明らかに食品と認識される物」や「一般に食品として飲食に供されている物」は専ら医薬品として判断しないとの記載もあります。

食薬区分の判断の実際例えば、タウリンは医療用医薬品としての使用実態がありますので、タウリン自体は専ら医薬品であり、タウリンを成分として含む素材も原則的には専ら医薬品となります。ただし、たこやいわしは、成分としてタウリンを含みますが、一般に食品として供されているものであるため専ら医薬品とは判断されません。また、グルタチオンも医療用医薬品としての使用実態はありますが、グルタチオンはほとんどの生物に含まれる普遍的な生体成分でもあり、様々な動物性・植物性の素材に含まれます。従って、グルタチオン自体は専ら医薬品ですが、これを成分として含む様々な肉・野菜、魚介類等は専ら医薬品とは判断されません。

2)毒性の強い含有成分と食経験・食習慣の兼ね合い

はじめにの画像46通知は、「毒性の強いアルカロイド、毒性タンパク等、その他毒劇薬指定成分に相当する成分を含む物」を「専ら医薬品」として判断するように規定しています。一方、上記1)で述べたように、「明らかに食品と認識される物や一般に食品として飲食に供されている物」は専ら医薬品として判断しないとの記載もあります。例えば、インゲン豆は明らかに食品ですが、十分な加熱調理を行わずに食べると、おう吐、下痢などを起こす危険があります。インゲン豆による食中毒の原因物質としてレクチンという毒性タンパクが知られていますが、これは十分に加熱することにより毒性を失います。インゲン豆は毒性の強いレクチンを含むという事実と、インゲン豆は十分に加熱調理して食べるという周知の食習慣と、その兼ね合いの中で、インゲン豆は「専ら医薬品」としては判断されず、非医リストに収載されています。

3)着香、着色目的の医薬品成分

46通知は、「専医リスト」に収載された素材を含む製品であっても、薬理作用が期待できない程度の量で着色、着香、着味等の目的のためにその素材が使用されている場合は、その製品を医薬品とみなさないと規定しています。例えば、ゲンチアナは専医リストに収載されている素材であり、胃腸薬によく配合される生薬ですが、このゲンチアナを生薬としてではなく、苦味付けの目的で薬理作用が期待できない程度に加えているリキュールは、食品として販売することができます。

4)機能性表示食品制度との関係

46通知は、機能性表示食品は医薬品に該当しないものと判断して良いと規定しています。一方で、本コラムの冒頭で述べたように、「医薬品であるもの(医薬品そのもの、あるいは医薬品を含むもの)は食品ではない」という大前提があります。従って、専医リストに収載されているものは、原則的には食品として使用することはできません。機能性表示食品の届出等に関するガイドラインにも、「当該食品又は機能性関与成分について、専医リストに含まれるものでないことを確認すること」と明記されています。しかし、上述の1)2)3)に例示した食薬区分における問題点は、機能性表示食品における専医リストの取扱いにも反映されることとなります。そこで、厚労省は改めて、「専医リストに収載されているものであっても、それが野菜・果物等の生鮮食料品に元から含有される成分である場合は、当該成分を含有している生鮮食料品の医薬品該当性について、当該成分を含有することのみを理由として医薬品に該当するとは判断せず、食経験、製品の表示・広告、その製品の販売の際の演術等を踏まえ総合的に判断する。」との考え方を示しています(平成31年3月15日薬生監麻発0315第1号通知)。これを受けて機能性表示食品を管轄する消費者庁は、「機能性表示食品として届出しようとする食品の機能性関与成分が専医リストに収載されていても、食経験等を踏まえた総合的な判断により医薬品に該当しない場合は、その届出を妨げない」と指針を示し、同時に、「医薬品に該当しないかどうか不明確な場合は、届出確認時に消費者庁から厚労省に照会して確認する」としています(平成31年3月26日消食表第126号通知)。

 

5.おわりに

46通知が発出された当時、つまり50年前は、素材中の特定の成分を例えば100倍以上に濃縮して食品を製造することは想定されていなかったものと思われます。規制緩和により錠剤やカプセル状のサプリを健康食品として販売できるようになってから、通常の食経験に照らした安全性の担保の考え方が通用しない状況が生まれるようになりました。「明らか食品」は、色、味、におい等で品質の良し悪しを容易に判断することができますし、100倍などの過剰量を摂取することは不可能です。それに比べて、錠剤やカプセル状の健康食品では、消費者が外観からその品質を判断することは難しい上に、ある野菜の特定の成分をその野菜の100個分に濃縮して摂取することが可能です。上述したように、毒性の強い成分を含む素材に関する食薬区分の判断はもともと難しいものですが、ここに、従来の食経験を逸脱した濃縮物をどのように扱うかという問題が加わっています。現在は、急性毒性や慢性毒性等を目安とした毒性の強さと、その毒性が生体に及ぼす影響の内容と、その食経験・食習慣の普遍性等から、その品目の食薬区分が総合的に判断されています。現段階で入手可能な科学的エビデンスの質と量では時期尚早となりますが、例えば、一日摂取許容量等を基にした特定の成分の含有量制限など、濃度の考え方を食薬区分制度に取り入れることができるかどうかが将来的な課題になるものと思われます。

 

袴塚高志(はかまつか たかし)

日本薬科大学薬学部薬学科社会薬学分野 教授
1985年東京大学薬学部卒、1989年10月東京大学薬学部、1995年4月東京理科大学薬学部、2005年1月国立医薬品食品衛生研究所を経て、2022年4月より現職。
薬学博士

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