はじめに
市場では、ダイエット効果を宣伝した健康食品が出回っています。特に若い女性を中心に人気を集めていますが、これらの製品の品質は様々で、時には粗悪な製品や医薬品成分を添加した製品を使用して健康を害する場合もあるようです。実際に、痩身を標ぼうした「ホスピタルダイエット」などと称する製品 (以下、ホスピタルダイエット) について、その利用との関連が疑われる健康被害が相次いで報告されています。そこで、ホスピタルダイエットによる健康被害の事例を紹介し、ダイエット目的で健康食品を利用する場合の注意点を解説します。
ホスピタルダイエットって?
ホスピタルダイエットは、「タイ製のやせ薬」などと称して販売されている製品です。「MDクリニックダイエット」、「ヤンヒーダイエット」などの名称で販売されている場合もあり、様々な色の錠剤・カプセル状の外観が特徴的です (右記写真参照:厚生労働省ウェブサイトより加工転載) 。
ホスピタルダイエットは個人輸入代行サイトなどを介して流通しており、ウェブサイトに身長や体重などを入力することで、かんたんに入手でき、手軽に使用されているようです。しかしながら、これらの製品を分析すると、向精神薬や肥満抑制薬などが検出され、自己判断で使用することは大変危険です。実際に、ホスピタルダイエットを使用して体調不良を経験したという事例が、これまでに多数報告されています。このような製品は日本で医薬品としての承認を得ておらず、無承認無許可医薬品に該当します。厚生労働省はホスピタルダイエットを使用しないように、使用して体調異常が現れた場合には直ちに使用を中止して医療機関を受診するとともに、保健所に報告するようにとの注意喚起(1)を行っています。
ホスピタルダイエットによる健康被害の事例
2002年、香川県で「ホスピタルダイエット 3a5」と称する製品を長期間使用した方が皮膚障害、肝機能障害を生じて重篤な状態で入院したという事例が発生し、この製品から緩下剤、利尿薬、向精神薬などが検出されました (2)。これ以降も、ホスピタルダイエットの使用後に様々な症状を生じた事例が、国内で多数報告されています (表) 。相次ぐ健康被害の発生を受けて、厚生労働省とともに地方自治体も、このような製品を購入、使用しないように勧告を行っていますが、2018年にも健康被害が発生しており、引き続き注意が必要です。
表 国内でのホスピタルダイエットによる健康被害の事例
年 | 製品名 | 被害者の特性 | 健康被害の内容 |
2002 | ホスピタルダイエット 3a5 | 不明 | 中毒性表皮壊死剥離症、肝機能障害 |
2003 | ホスピタルダイエット ニューホスピ |
不明 | ふるえ、甲状腺機能亢進など |
2003 | ホスピタルダイエット ドクターダイエット |
不明 | 頭痛、嘔吐、動悸、発汗など |
2005 | 不明 (製品の外観が類似) | 不明 | 急性心不全、死亡 |
2005 | ヤンヒーホスピタルダイエット | 不明 | 甲状腺機能障害、動悸、胸痛、口渇など |
2006 | ヤンヒーダイエット | 不明 | 甲状腺機能亢進症、手のふるえ、焦燥感 |
2007 | MDクリニックダイエット | 不明 | 動悸、発汗、めまいなど |
2007 | ホスピタルダイエット | 40代女性 | 微熱、動悸、体重減少、甲状腺機能亢進症など |
2008 | 不明 (製品の外観が類似) | 不明 | 口渇、めまい、ふらつきなど |
2009 | MDクリニックダイエット | 10代女性 | 食欲不振、吐き気、めまい、頻脈、発汗など |
2009 | ホスピタルダイエット | 40代女性 | 不整脈、呼吸器麻痺(偽性バーター症候群)、死亡 |
2009 | MDクリニックダイエット | 30代女性 | 死亡(因果関係不明) |
2010 | MDクリニックダイエット | 10代女性 | 動悸、嘔吐、息切れ、歩行困難、食欲不振、意識障害、薬剤性甲状腺機能低下症 |
2011 | MDクリニックダイエット | 30代女性 | 目の痙攣、ふらつき |
2011 | MDクリニックダイエット | 20代女性 | 死亡 (因果関係不明) |
2012 | MDクリニックダイエット | 10代女性 | 発汗、動悸、息切れ、胃部不快感 |
2012 | 不明 (製品の外観が類似) | 20代女性 | 腹痛、嘔吐 |
2012 | 不明 (製品の外観が類似) | 30代女性 | 幻覚、幻聴 |
2016 | ホスピタルダイエット | 20代女性 | 排尿困難、意識朦朧、手足のふるえ |
2016 | ホスピタルダイエット | 30代女性 | 甲状腺機能亢進 |
2017 | MDクリニックダイエット | 20代女性 | 悪心、手足のしびれなど |
2018 | ヤンヒーホスピタルダイエット | 40代女性 | 甲状腺機能亢進、低カリウム血症 |
ダイエット目的での健康食品利用のリスク
日本で発生したホスピタルダイエットによる健康被害の報告のうち、その詳細が把握できた15件すべてが、女性の被害でした。当サイトの被害関連情報に掲載している、日本国内での健康食品の利用による健康被害事例は、多くが10代から30代の女性によるダイエット目的での利用です。また、ダイエット効果を謳った製品の利用による下痢などの体調不良も数多く報告されています。「簡単に痩せられる」など劇的な効果を謳って販売されている製品を安易に使用しないようにしましょう。
市場ではあたかもダイエット効果があるように宣伝した製品が多数販売されていますが、健康食品には医薬品のような効果を期待することはできません。適正な体重の維持のためには、食事や運動などの基本的な生活習慣の改善が不可欠です。特定保健用食品(トクホ)では「体脂肪を減らすのを助ける」と表示された製品がありますが、これも日ごろの食生活を改善した上で運動などに取り組むことで体脂肪を減らすのを助けてくれるものであり、トクホを使用するだけではダイエット効果は得られません。ダイエット効果を謳う健康食品の利用をはじめる前に、まずは生活習慣の改善を心がけましょう。
おわりに
被害関連情報のページでは、国内外の健康食品の利用によって生じた健康被害の報告や、法律に違反する健康食品の情報を掲載しています。ホスピタルダイエットの事例のように、同じ製品やよく似たパッケージの製品が、違反品や健康被害の原因として繰り返し注意喚起の対象となっています。ぜひご参照いただき、このような製品を使用しないようにしてください。
参考文献
(1)厚生労働省ウェブサイト「「ホスピタルダイエット」などと称されるタイ製の向精神薬等を含有する無承認無許可医薬品による健康被害事例について」
(2) (2004117686) 香川県環境保健研究センター所報 2003 2 84-93