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【第13回】健康食品・サプリメントによる健康障害

カテゴリー:専門家に聞きました
更新日:2023/03/31

新潟大学大学院医歯学総合研究科 血液・内分泌・代謝内科
教授 曽根 博仁

もくじ

  1. はじめに
  2. 健康食品やサプリメントによる重篤な有害事象
  3. わが国の健康食品・サプリメントによる健康障害の把握体制
  4. 健康障害データベースの重要性
  5. おわりに-まず知ることから

 

1.はじめに

 健康食品やサプリメントは、薬とは異なり副作用はないと思われがちですが、実は様々な健康障害を引き起こすことがあります。幸い、一時的な下痢や蕁麻疹など軽症のものが多いのですが、中には命にかかわるような重症のものも見られます。厳しい臨床試験を経て認可される医薬品ですら、発売後多くの人に使用されて初めて、未知の副作用が明らかになることはよくあります。健康食品やサプリメントは、医薬品のような厳しい試験が課されていない上、食品として長く摂られてきたものでも、摂取量や使用方法が従来とは大きく異なる場合や、成分抽出、錠剤・カプセル化されていることも多く、それまで知られていなかった健康障害の原因になることがあります。実際にスペインの研究では意外なことに、ハーブを含むサプリメントによる肝臓障害は、医薬品による肝臓障害よりも重症でした(1)。しかし、医薬品に副作用があることは広く知られているのに対し、健康食品やサプリメントにも健康障害が起こりうることは十分知られていません。

 

2.健康食品やサプリメントによる重篤な有害事象

 そこで我々は、最近約15年間に日本内科学会で発表された症例報告のうち、健康食品やサプリメントによる健康障害例88件の内訳を分析してみました(2)。その結果、劇症肝炎で死亡された2人の方を含め、集中治療を受けた重症例が11%に見られたことがわかりました。そのような重症例の方には、糖尿病など他の病気を合併されていた方が多いという特徴もありました。
 健康障害の種類としては、肝臓障害が31%と最も多く、急性腎不全17%、間質性肺炎11%でした。血液中のカルシウム、カリウム、マグネシウムなどのミネラル濃度の異常(電解質異常)も18%に見られました。摂取していた健康食品やサプリメントの種類としては、ダイエット食品や健康茶、ビタミン含有サプリメントなど多岐にわたり、摂取開始3ヶ月以内の発生例が3分の2を占めていた一方、10年以上の摂取期間を経て発生した例もあり、長く飲んでいるから安心、と言い切れないことも示されました。

 

3.わが国の健康食品・サプリメントによる健康障害の把握体制

 わが国では現在、食品衛生法に基づき事業者に報告義務が課されている4つの指定成分(プエラリア・ミリフィカ、ブラックコホシュ、コレウス・フォルスコリー、ドオウレン)については、厚生労働省の薬事・食品衛生審議会において、医療専門家が個々の事例の検討を行っています。しかし、それ以外の健康食品・サプリメントに起因する健康障害については、たとえ重症であっても、医療者や事業者に報告義務がないため完全に把握されていないのが現状です(3)。
 内科学会データベースは、健康食品による障害を集めるためのものではありませんから、前記の結果は実態のごく一部を反映したものに過ぎません。それでも今回も明らかになったように、腎透析など深刻な後遺症や死亡につながったものもみられました(2)。特に肝臓の障害のように、重症になるまで無症状で気づきにくい障害もあるので、早期発見と実態把握のためには、健診機関や医療機関の積極的な協力も欠かせません。
 米国においては、サプリメントの重篤な健康障害については事業者に報告義務が課せられ、情報は一元的に集約される体制になっています(4)。わが国でも今後、万一の際の被害拡大を最小限に食い止めるためにも、指定成分以外の健康障害事例についても、重症ケースを中心にモニタリング体制の充実が望まれます。

 

4.健康障害データベースの重要性

 膨大な健康食品・サプリメントの有害情報をすべて把握するのは、たとえ専門家でも困難なため、このような健康障害事例を集めたデータベースの整備も極めて重要になります。しかも海外と日本とでは、人々の遺伝的背景(いわゆる体質)、食事内容、使われている健康食品の種類や成分量などがかなり異なるため、わが国独自のデータベース整備が必要です。
 わが国では国立健康・栄養研究所が構築、提供する「『健康食品』の安全性・有効性情報」サイト(Health Foods Network; HFNet)(5)が存在し、学術論文情報などによりアップデートを継続しており、科学的根拠に基づく最新知見を検索する上で重要な手段となっています。ただし、医療関係者など基礎知識を有する方を主な対象としているため、一般消費者や事業者の方は、注意書きをよく読んだ上で参考として利用し、できれば自分だけで判断せず、専門家に相談することが望まれます。

 

5.おわりに-まず知ることから

 サプリメントや健康食品は現在非常に多くの人々に利用され、市場規模の拡大も続いています。しかし健康のために摂っているものにより、健康を損なってしまっては元も子もありません。さらにこれらは食品ですので、病気の人の治療には用いることはできないのですが、本来使うべき医薬品の副作用を恐れて、代わりにサプリメントや健康食品を使い、結果的に元の病気を進行させてしまう人も後を絶ちません。また、すでに飲んでいる他の薬との飲み合わせによる思いがけない健康障害もあり得ます(6)。
 まずは、サプリメントや健康食品は100%安全ではないと知ることが大事で、健康診断なども通じて、健康障害がでていないかをチェックしながら、疑問に思ったら医療専門家に相談するようにしましょう。

 

文献
  1. Clin Gastroenterol Hepatol. 16:1495-1502, 2018.
  2. 機能性食品と薬理栄養15(6):297-303, 2022.
  3. Shokuhin Eiseigaku Zasshi, 59, 106-113, 2018.
  4. 栄養学雑誌 80(1), 3-20, 2022.
  5. 機能性食品と薬理栄養15(6):309-314, 2022.
  6. 機能性食品と薬理栄養15(6):315-320, 2022.

 

曽根 博仁(そね ひろひと)

1990年筑波大学医学専門学群卒、1997年米国ミシガン大学代謝内分泌内科研究員、1999年筑波大学臨床医学系代謝内分泌内科講師、2006年お茶の水女子大学生活科学部食物栄養学科准教授、2009年筑波大学水戸地域医療教育センター内分泌代謝・糖尿病内科教授を経て、2012年より現職。博士(医学)。日本栄養・食糧学会、日本機能性食品医用学会、日本臨床栄養学会などの理事。

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