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【第11回】“情報社会”において健康食品の機能性を正しく吟味するために

カテゴリー:専門家に聞きました
更新日:2023/03/31

静岡県立大学薬学部医薬品情報解析学分野
特任教授 山田 浩

もくじ

  1. はじめに
  2. 現代は“情報社会”の時代
  3. 健康食品の機能性に関する情報の批判的吟味
  4. おわりに

 

1.はじめに

【第11回】情報社会において健康食品の機能性を正しく吟味するためにの画像 近年、国民の健康意識への指向と医療費の高騰を背景に、「健康食品注1)」の保健機能(機能性)に対する関心が急速に高まっています。それを反映してか、スーパーマーケットやドラッグストアなどで、国が機能性の表示を認めた“特定保健用食品(トクホ)”、“栄養機能食品”、“機能性表示食品”、さらには機能表示が認められていない“いわゆる健康食品”に至るまで、非常に多くの健康食品が棚に陳列されているのを見かける様になりました。また、現代は“情報社会”と言われる様に、健康食品の機能性に関する様々な情報がインターネットなどを介して次々と入ってきます。この様な状況の中で健康食品を利用するにあたっては、情報を吟味し、科学的なエビデンス(実証に基づく根拠)はどの程度確かなのかといった疑問に答える方法を知っておく必要が生じています。
 本コラムでは一般の方々にも知っておいていただきたい、“情報社会”の時代において健康食品の機能性を正しく吟味するための基本的な考え方について概説します。

 (注1:「健康食品」は明確な定義がありませんが、本コラムでは、国が機能性の表示を認める“特定保健用食品(トクホ)”、“栄養機能食品”、“機能性表示食品”、さらに機能表示が認められていない“いわゆる健康食品”を含め、「健康食品」と定義します。)

 

2.現代は“情報社会”の時代1)

 現代は、“情報革命”と呼ばれる程の“情報社会”が到来しています。今まで人間社会に大きな変革をもたらした革命には、狩猟から農耕・牧畜社会に移った”農業革命“、次いで工業化(機械化)が進んだ”産業革命“がありました。現代は、情報技術(インフォメーションテクノロジー: IT)による第3の革命“情報革命”と呼ばれています。ITによる情報のデジタル化や家庭用コンピュータ並びにスマートフォンの普及、ハイパーリンクやソーシャルネットワークサービス(SNS)を始めとする通信機能の充実から、今や”情報“を生活の中心に置く時代が到来しています。健康食品の場合も例外ではなく、家庭や職場を離れることなく、インターネットを介して瞬時のうちに世界からの情報を入手できる時代となって来ています。このような”情報社会“では、情報が容易に入手できる反面、玉石混淆の情報が氾濫する中から、信頼できる情報を批判的に吟味し取捨選択する技術が重要となってきます。

 

3.健康食品の機能性に関する情報の批判的吟味

 “情報社会”において、健康食品の機能性に関する科学的な根拠を求めるには、人を対象とする研究、すなわち臨床研究の情報からエビデンスの強さを吟味する必要があります2,3)(図1)。細胞(試験管内)や動物レベルの実験で効果があったと宣伝している健康食品を見かけることがありますが、それが本当に人で証明されるかどうかはわかりません。健康食品の機能性を謳うには、人での研究成果を示す必要があるのです。続いて、研究結果の公表が学会発表なのか、論文発表なのかを確認します。学会発表レベルでは十分な査読を受けていない可能性があるため、未だ十分とは言えません。第三者の査読に耐えた論文発表であれば、他の科学者も納得するレベルの情報となります(一流の国際科学誌への掲載であれば、更に信頼性が上がります)。
 臨床研究のエビデンスの強さに関しては、研究デザインがランダム化比較試験(RCTと呼ばれます)や前向きコホート研究が上位にランクされ、質の高いRCTを統合したメタアナリシスはエビデンスが最強となります注2)。健康食品利用者からの「飲んだら○○に良く効いた」といった様な体験談や専門家の意見は、エビデンスの強さからは残念ながら低いレベルにランクされます。さらに複数の研究結果で支持された情報は信頼性が上がります。
 なお1つ1つの研究の信頼性を更に具体的に吟味するには、本連載コラム第1回で紹介されている厚生労働省eJIM | 情報の見極め方 | 「統合医療」情報発信サイト (ncgg.go.jp)などを参照ください。

 

4.おわりに

おわりにの画像 一昔前までは「健康食品はエビデンスがない」と医療現場では使用に懐疑的な時代もありました。今や、その様な時代は終わり、エビデンスはどの程度確かなのかが問われる時代になりました。一方、機能性のエビデンスがあるからと言って、直ぐに健康食品を使用して良いと言うわけではありません。過剰摂取による健康被害やアレルギー反応、医薬品との相互作用なども起こり得ますので、安全性の吟味も大切です。
 国民の自己健康管理への関心は今後、ますます高まり、健康な方や病気予備群(未病者)だけでなく、健康食品を摂取する患者が増え、その結果として、健康食品の安全性や医薬品との併用による相互作用が問題となる場合も起こり得ます。健康食品は医薬品に取って代わるものではありません。健康食品を誤って“治療”目的で使用しない、あくまでも補完的な位置づけで使用することが重要です。

 

(文献)
  1. 図解 医薬品情報学(2019)、南山堂、17-20
  2. 医薬品情報学workbook(2015)、朝倉書店、148-154
  3. 生物統計・疫学・臨床研究デザインテキストブック(2018)、メディカル・パブリケーションズ、133-151

 

山田 浩(やまだ ひろし

1981年自治医科大学卒業、9年間の地域医療勤務を経て1994年自治医科大学大学院修了(医学博士)。以後、自治医科大学神経内科助手、聖隷浜松病院総合診療内科医長、浜松医科大学附属病院治験管理センター助教授を経て、2005年より静岡県立大学薬学部教授(2022年特任教授)。日本内科学会総合内科専門医、日本神経学会専門医、日本臨床薬理学会専門医

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