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【第24回】健康食品を購入する前に

カテゴリー:専門家に聞きました
更新日:2025/02/05
内閣府食品安全委員会
シニアフェロー 脇 昌子

 

 クリスマス間近の人であふれる銀座でひと際目を引かれたのが、黙々と並ぶ長―い長い行列。その日は、ジャンボ宝くじ販売最終日でした。10億円の夢を求める人のなんと多い事か。6等3,000円でも、30分の1の確率。1枚300円で30枚買ってやっと3,000円当たるかも。ましてや1等7億円は1,000万分の1、前後賞で10億円なんて、確率はゼロに近いのに、なぜ並んでまでして購入されるのでしょうか? 販売元、つまり地方自治体への寄付のため?

 さて私は、患者さんを診る内科医として45年を過ごしてきました。この間に、医学と医療は激変しました。内科は、診断力と治療には薬物の使い方が中心となる分野です。往時は有効な治療薬がなく、入院しての難しい食事療法が治療の中心になる病気も多くありました。現在は、食事の重要性は変わりませんが、治療手段というよりも病状の安定維持に必要とされています。

 また、薬の使い方では、驚くことがたくさんありました。それまで優れた治療薬とされていた薬剤が、長期的には使わない方が経過がよいと分かったこと、反対に「危険」とされていた薬が、実は長期的には服薬していた方がよいと分かったこと、薬を組み合わせると一つずつの作用の足し算とは全く違う効果があると分かったこと、など、いくつもの事例がありました。つまり、昨日の常識が今日からは非常識、あるいはその逆になったのです。このような経験から、どのようなデータも、あくまで「現在の知識の範囲」という条件付きだと考えるようになりました。薬剤を処方する際は、自分なりに情報を検討し、患者さんのご病状と併せて投与目的や期間なども、慎重に考えます。医師が患者と話をしているイラスト

 このコラムの本題の「健康食品」についても同じように考えることができるでしょう。○○の効果があるかもしれないけれど、もっと長く研究すれば、ない方がよかったという結果になるかもしれません。あるいは、他の何かと組み合わせると、効果が変わるかもしれません。将来に得られる効果を確かに予測することはできないのです。

 また、たいていの医療者は、健康食品やサプリメントを患者さんに役立つものとはなかなか思えません。

 その理由の第一は、食品の効果は医薬品とは桁違いに小さく得づらいからです。たとえ「健康」食品であっても。「効く」健康食品には、違法に医薬品を混ぜ入れて、摘発されたものがあります。
 第二に、医薬品との相互作用があるからです。薬を処方する場合は他の薬との相互作用(薬の効果が強くなりすぎたり、弱まったり、あるいは副作用が強くなったりする)や、食品や栄養素との相互作用も考える必要があります。しかし、特に新たな成分の健康食品については情報が乏しく相互作用が分かりません。とても危険な状況です。「変わったもの(医師や薬剤師がよく知っている物ではないもの)は、勝手に摂らないで下さい!」と言いたいのが本音です。
 第三に、健康食品やサプリメントが患者さんに使われる背景です。健康食品が医薬品の代替えになると、患者さんが誤解されているのかもしれません。しかしこれらは、効果の大きさも、副作用のチェック体制と責任の所在も大きく違います。自己判断で、健康茶を飲むから血圧低下薬をやめるようなことになると、血圧コントロールが悪くなります。患者さんは、食生活が良くないけれど、多種のサプリメントで補っておいたら大丈夫、と考えられているのかもしれません。

でも、それは不適切です。例えばカルシウムは、心臓病を起こしやすい人がサプリメントで多量に摂ると血栓症を起こすリスクがあり、勧められません。また、誰かに勧められるがまま、高額な健康食品を購入されているのではないか、とも心配になります。

 このように、医療の場ではおおむね、「健康食品は薬を飲んでいる患者さんには益は乏しい」、「サプリメントは、不足症としっかり診断された人のみが、過剰にならない量で利用するもの」との考えです。

サプリメントのボトルとパウチのイラスト
 では、病気のない一般の人々にとってはどうでしょうか? 残念ながら、一般健康人がマルチビタミン剤、ビタミンD製剤、魚油(w3系脂肪酸)などを摂って、疾患リスクや死亡リスクが減ったというデータはありません。しかし、やっぱり安心のために健康食品やサプリメントをどうしても利用したいという方もあるかもしれません。そのためには、先ずそれらが自分にとって安全かを確認することが最優先です。

 内閣府食品安全委員会では「19のメッセージ」として、健康食品の利用を考えるときに、先ずそれが自分にとって安全かどうかを見極めるための考え方を示しています。


「健康食品」についての19のメッセージ(一部改変)
1.食品の安全性
1 「食品」でも安全とは限りません。
2 「食品」だからたくさん摂っても大丈夫と考えてはいけません。
3 同じ食品や食品成分を長く続けて摂った場合の安全性は正確にはわかっていません。
2.「健康食品」の安全性
4 「健康食品」として販売されているからといって安全ということではありません。
5 「天然」「自然」「ナチュラル」などのうたい文句は安全を連想させますが、科学的には「安全」を意味するものではありません。
6 「健康食品」として販売されている「無承認無許可医薬品」に注意してください。
7 通常の食品と異なる形態の「健康食品」に注意してください。
8  ビタミンやミネラルのサプリメントによる過剰摂取のリスクに注意してください。
9 「健康食品」は、医薬品並みの品質管理がなされているものではありません。
3.「健康食品」を摂る人と摂る目的
10 「健康食品」は、多くの場合が「健康な成人」を対象にしています。高齢者、子ども、妊婦、病気の人が「健康食品」を摂ることには注意が必要です。
11 病気の人が摂るとかえって病状を悪化させる「健康食品」があります。
12 治療のため医薬品を服用している場合は「健康食品」を併せてとることについて医師・薬剤師のアドバイスを受けてください。
13 「健康食品」は薬の代わりにはならないので医薬品の服用を止めてはいけません。
14 ダイエットや筋力増強効果を期待させる食品には、特に注意してください。
15 「健康寿命の延伸(元気で長生き)」の効果を実証されている食品はありません。
4.「健康食品」の情報
16 知っていると思っている健康情報は、本当に(科学的に)正しいものですか。情報が確かなものであるかを見極めて、摂るかどうか判断してください。
5.「健康食品」を摂るとき
17 「健康食品」を摂るかどうかの選択は「わからない中での選択」です。
18 摂る際には、何を、いつ、どのくらい摂ったかと、効果や体調の変化を記録してください。
19  「健康食品」を摂っていて体調が悪くなったときには、まずは摂るのを中止し、因果関係を考えてください。
平成27年(2015年)12月 内閣府食品安全委員会 いわゆる「健康食品」に関するメッセージ 

 

 詳しくは参考資料にあるホームページURLからダウンロードして下さい。よきチェッククリストとなるはずです。これをもとに考えていただければ、例えば小林製薬の紅麹関連の事件でも、高齢の方、病気のある方、体調が悪いことに直ぐ気づいた方、などは、健康被害を免れることができたはずです。
 私は2015年にこのメッセージ作成のとりまとめ役を担いましたが、それから長く経ったのに皆様に十分に届いていなかったことが残念です。改めてお伝えしたいと思います。

 文頭に書いた宝くじの当選発表は、その行列の2週間後でした。結果が早く分かり、スッキリと割り切れますね。さて健康食品も、2~3か月毎に体調や経済コストを見直し、継続するかどうかを判断して仕切り直すのが安全です。メッセージにもあるように、長期的に同じものを食べることは、良い効果があるとしても、悪い効果が出る可能性も高まります。

 最後に。宝くじが10億円への夢と地方自治体への寄付なのに似て、健康食品は健康への安心と食品産業界への投資のようです。

 

参考資料
(1)平成27年(2015年)12月 内閣府食品安全委員会 いわゆる「健康食品」に関するメッセージ 
(2) J Am Coll Cardiol. 2021 Feb 2;77(4):437-449. doi: 10.1016/j.jacc.2020.09.617 
 ビタミンDサプリメントでは心血管病への効果が乏しく、カルシウムサプリメントでは心血管病のリスクを上げる懸念がある 
(3) 厚生労働省「日本人の食事摂取基準2025年版」策定検討会報告書 骨粗鬆症
(4) N Engl J Med. 2022 Jul 28;387(4):299-309. doi: 10.1056/NEJMoa2202106.
 ビタミンDとオメガ3系脂肪酸のサプリメントと骨粗しょう症や多疾患のリスクについて
(5)JAMA Netw Open. 2024;7(6):e2418729. doi:10.1001/jamanetworkopen.2024.18729
 米国3コホートにおけるマルチビタミン利用と死亡率について

 

脇 昌子 略歴

1979年3月 徳島大学医学部医学科卒。 医学博士、内科医(専門:代謝栄養・内分泌・糖尿病・肥満症・循環器)として国立循環器病センター、市立島田市民病院、静岡市立静岡病院等で勤務。2021‐4年 内閣府食品安全委員会委員。

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