注意!(1) データの無断転用,引用、商用目的の利用は厳禁.(2) 以下の情報は現時点(最終更新日時)で調査できた素材の科学論文情報です. 実際に販売されている商品に以下の素材が含まれているとしても,その安全性・有効性がここに紹介した情報と一致するわけではありません.(3) 詳細情報として試験管内・動物実験の情報も掲載してありますが,この情報をヒトに直接当てはめることはできません.有効性については,ヒトを対象とした研究情報が重要です.(4) 医療機関を受診している方は,健康食品を摂取する際に医師へ相談することが大切です.「健康食品」を利用してもし体調に異常を感じたときは、直ぐに摂取を中止して医療機関を受診し,最寄りの保健所にもご相談下さい.
項 目
内 容
名称
キトサン [英]Chitosan [学名]-
概要
キトサンは、D-グルコサミンが鎖状に長くつながったアミノ多糖である。主に、カニ殻などから抽出される不溶性の食物繊維であるキチンをさらに加工したものが用いられるが、近年ではキノコから抽出したものもある。キトサンの中にはキチンが16%ほど含まれていることから、実際はキチン・キトサンとして扱われている。俗に、「コレステロールによい」「肥満によい」「便秘によい」「有害成分を排泄する」などと言われているが、腎不全患者や血液透析患者において、高コレステロール値の低下あるいは貧血の改善などに対して有効性が示唆されている。安全性については、短期間の摂取で安全性が示唆されているが、妊娠中・授乳中の安全性については十分なデータがないことから使用は避ける。その他、詳細については、「すべての情報を表示」を参照。
法規・制度
・「医薬品的効能効果を標ぼうしない限り医薬品と判断しない成分本質 (原材料)」に区分される (30) 。 ・キトサンを関与成分とし「コレステロールの高い方に適する」保健用途の表示ができる特定保健用食品が許可されている。
成分の特性・品質
主な成分・性質
・β‐1,4-poly-N-glucosamine。キチンの脱アセチル化物。水に不溶であるが希酸に可溶であり、塩は水溶性のものもある (32) 。
分析法
・試料を加水分解し、金属イオンアフィニティークロマトグラフを用いて精製した後、アセチル化[N-acetylchitooligosaccharides (GlcNAc2-7)]してHPLC-質量分析計により分析した報告がある (PMID:7573948) 。 ・キャピラリー電気泳動による高分子のキトサン (Mr200,000) の分析例がある (PMID:11504055) 。
有効性
ヒ ト で の 評 価
循環器・呼吸器
一般情報 ・腎不全患者や血液透析患者において、高コレステロール値の低下、貧血の改善に対し、経口摂取で有効性が示唆されている (94) 。 ・キトサンを関与成分とし「コレステロールの高い方に適する」保健用途の表示ができる特定保健用食品が許可されている。 メタ分析 ・2008年5月までを対象に4種のデータベースで検索できた無作為化プラセボ比較試験6報について検討したメタ分析において、高コレステロール血症患者におけるキトサン摂取 (1.2〜6.75 g/日、4〜16週間) は、総コレステロール値の低下に寄与する可能性は認められたが、LDLコレステロール、HDLコレステロール、トリグリセリドの値には影響をあたえない (PMID:19923803) 。 ・2004年2月までを対象に5種のデータベースと6種のウェブサイトで検索できた無作為化プラセボ比較試験15報について検討したシステマティックレビューにおいて、過体重もしくは肥満の成人男女によるキトサン摂取 (0.24〜15 g/日、4週間以上) は、体重減少、総コレステロール値の低下、血圧低下に寄与する可能性が認められた (PMID:18646097) 。 RCT ・脂質異常症を有する女性患者に対し、キトサン1.2 g/日の服用56日間 (41名) とプラセボ服用 (43名) を無作為化二重盲検試験 (日本) にて比較したところ、総コレステロール値の低下を認めた (PMID:12771974) 。一方、同用量3ヶ月間のクロスオーバー無作為化二重盲検試験 (フィンランド) では脂質に影響を与えなかった (PMID:14605789) 。 ・成人男女65名 (18〜55歳、フィンランド) を対象とした単盲検並行群間無作為化プラセボ比較試験において、キトサン4.5 g/日もしくは6.75 g/日を8週間摂取させたところ、血中総コレステロール値とLDLコレステロール値に影響は認められなかった (PMID:18460478) 。 ・総コレステロール値が高い成人40名 (試験群20名、平均29.3±8.4歳、日本) を対象とした二重盲検プラセボ比較試験において、キトサン0.293 g×3回/日含有の青汁飲料を12週間摂取させたところ、総コレステロールの低下が認められたが、HDLコレステロール、LDLコレステロール、トリグリセリド、遊離脂肪酸、リン脂質に影響は認められなかった (20166972) 。 ・総コレステロール値が高い成人65名 (平均40.4±9.2歳、試験群33名、日本) を対象とした二重盲検プラセボ比較試験において、キトサン0.293 g×3回/日含有の青汁飲料を12週間摂取させたところ、総コレステロール、HDLコレステロール、LDLコレステロール、トリグリセリド、遊離脂肪酸、リン脂質、apoAI、apoB、apoEに影響は認められなかった (101) 。 ・LDLコレステロール値が高い成人82名(試験群40名、平均48.4±9.1歳、日本) を対象とした二重盲検無作為化プラセボ比較試験において、食事制限とともにキトサン0.38 g×3回/日含有の青汁飲料を12週間摂取させたところ、総コレステロール、LDLコレステロールの低下が認められたが、HDLコレステロール、トリグリセリド、遊離脂肪酸、リン脂質、アポ蛋白に影響は認められなかった (102) 。 その他 ・健康成人男性8名 (20〜23歳、日本) を対象に、キトサン含有クッキー (キトサン3〜6 g/日含有) を7日間摂取させたところ、糞中のコール酸およびケノデオキシコール酸の増加、血中の総コレステロールの低下、HDLコレステロールの上昇を認めた (1995082312) 。
消化系・肝臓
調べた文献の中に見当たらない。
糖尿病・内分泌
生殖・泌尿器
脳・神経・感覚器
一般情報 ・腎不全患者や血液透析患者において、食欲を高める、あるいは睡眠を改善するのに経口摂取で有効性が示唆されている (94) 。
免疫・がん・炎症
骨・筋肉
発育・成長
肥満
一般情報 ・体重減少にはおそらく効果がない (94) 。 メタ分析 ・2004年2月までを対象に5つのデータベースと6種のウェブサイトで検索できた無作為化プラセボ比較試験15報について検討したメタ分析において、過体重もしくは肥満の成人男女によるキトサン摂取 (0.24〜15 g/日、4週間以上) は、体重 (13報)、総コレステロール値 (9報) 、血圧 (7報) の低下と関連が認められたが、いずれも試験によるバラツキが大きかった (PMID:18646097) 。 RCT ・過体重の成人34名 (試験群17名、平均46.7±8.8歳、イギリス) を対象とした二重盲検無作為化プラセボ比較試験において、キトサン250 mg×4個×2回/日を28日間摂取させたところ、体重、BMI、血圧、血中脂質に影響は認められなかった (PMID:10369493)
その他
一般情報 ・腎不全患者や血液透析患者において、身体を丈夫にするのに有効性が示唆されている (94) 。
参 考 情 報
試験管内・ 動物他での評価
安全性
危険情報
<一般> ・適切に摂取する場合、安全性が示唆されている (94) 。 <妊婦・授乳婦> ・妊娠中・授乳中の安全性については十分なデータがないので使用を避ける (94) 。 <小児> ・サプリメントなど濃縮物として摂取する場合の安全性に関して信頼できる十分な情報が見当たらない。 <その他> ・36名の高齢者 (平均80±3歳、試験群18名、韓国) を対象とした群間比較試験において、キトサン5.1 g/日を8週間摂取させたところ、血清サイトカインレベルおよびその他の血液生化学レベルに変化はみられず、安全に使用できた (PMID:18254242) 。 <被害事例> キトサン含有製品摂取との関係が疑われる健康被害が報告されている。 ・キトサン含有健康食品を常用し、同時に喫煙も始めた17歳女性 (日本) が、3ヶ月後、発熱と呼吸困難を主訴とし、喫煙チャレンジテストと薬剤リンパ球刺激試験より、喫煙とキトサン含有健康食品の両方による急性好酸球性肺炎と診断された (2002019634) 。 ・61歳男性 (日本) がキチンキトサン固形食を1年間摂取し、同時に外用もしたところ、皮膚炎を起こした (2004276913) 。 ・25歳女性 (日本) がデオキシノジリマイシン (桑の葉成分) とキトサンを含む健康食品を不定期に約2週間摂取後、急性好酸球性肺炎を発症した (2006130396) 。 ・47歳女性 (日本) がキトサン含有健康食品を2錠内服したところ、約1時間半後にからだを中心とした膨疹を主訴とするアナフィラキシー症状を起こした (2006047196) 。 ・54歳女性 (アメリカ) が、体重減少を目的に、マオウ、ガラナ、キトサン、ギムネマ・シルベスタ、ガルシニア・カンボジアなどを含むハーブ製品を摂取した数時間後に、胸痛が2時間ほど続き、血清クレアチンキナーゼ値が1,028 IU/Lと上昇していたため、摂取した製品による横紋筋融解症と診断された (PMID:15201651) 。
禁忌対象者
医薬品等との 相互作用
<ヒト> ・ワルファリンを併用すると、抗凝固作用が増強する可能性がある (94) 。 ・高血圧性心疾患・II型糖尿病・慢性心房細動に罹患してワルファリン (2.5 mg/日) の投与を受けていた83歳男性 (台湾) が、自己判断でキトサン (1日2回1,200 mg) を摂取したところINR (国際標準化プロトロンビン比) が著しく増加し、キトサンの摂取中止とビタミンKの非経口投与によりINRが改善、キトサンの服用を患者が再開したため再度INRが上昇した (PMID:17925502) 。キトサンと胆汁酸の相互作用によりビタミンKの吸収が阻害されることが関連していると想定されている。 ・血液透析を行っていた慢性腎不全の52歳男性 (日本) が、処方されていた薬剤と合わせてキチンキトサン含有健康食品を推奨量の3倍摂取していたところ、出血傾向をきたした (2006315050) 。 ・てんかん治療のためバルプロ酸ナトリウム1,000〜1,250 mg/日を服用している29歳女性と35歳女性 (共にイタリア) が、体重減少を目的として、キトサンを含むダイエタリーサプリメントを2回/日 (キトサン摂取量は500〜1,000 mg/日) 、数日間〜1週間併用摂取したところ、強直間代発作の再発、血中バルプロ酸濃度の低下が生じた。摂取中止により改善したが、キトサンの再摂取により同様の症状があらわれた。 Naranjo probability scale (有害事象と薬物の因果関係評価指標) により、キトサン摂取による血中バルプロ酸濃度の低下およびてんかん発作の再発と想定された (PMID:19778975) 。 ・てんかん治療のためバルプロ酸ナトリウムとクロバザムを服用していた18歳女性 (日本) が、体重減少を目的にキトサンを含む健康食品を2ヶ月間摂取したところ (摂取量などの詳細不明) 、血中バルプロ酸濃度が低下し、てんかん発作が再発した (2008113904) 。 <試験管内・動物> ・動物実験 (ラット) において、キトサンオリゴ糖の摂取は肝ミクロソームのCYP3A、CYP2C、CYP4A活性を抑制した (PMID:22386817) 。 <理論的に考えられる相互作用> ・臨床検査値 (コレステロール、ヘモグロビン、尿素、クレアチニン) に影響を与えることがある (94) 。
動物他での 毒性試験
1.LD50 (半数致死量) ・キトサンを投与:マウス経口16 g/kg (PMID:9704098) 。 2.LC50 (半数致死濃度) ・キトサンを投与:ゼブラフィッシュ (水槽内) 257 mg/L (PMID:26877014) 。 ・キトサンナノ粒子を投与:ゼブラフィッシュ (水槽内) 270〜280 mg/L (PMID:26877014) 。 3.TC50 (半数細胞毒性濃度) ・キトサンを投与:ゼブラフィッシュ (水槽内) 137 mg/L (PMID:26877014) 。 ・キトサンナノ粒子を投与:ゼブラフィッシュ (水槽内) 257 mg/L (PMID:26877014) 。 4.その他 ・4週齢の卵巣摘出脳卒中易発症高血圧自然発症ラットに、10%キトサン添加食を6週間摂取させたところ、骨密度および大腿骨と第4腰椎の硬度が低下し、尿中カルシウム排泄の増加と血清中カルシウム濃度の減少に伴う骨喪失が認められた (2003197439) 。
AHPAクラス分類 及び勧告
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総合評価
・適切に摂取する場合、安全性が示唆されているが、さらなる科学的な検証が求められる。妊娠中・授乳中の安全性については十分なデータがないため使用を避ける。 ・特定保健用食品では、個別に製品ごとの安全性が評価されている。
(注:下記の内容は、文献検索した有効性情報を抜粋したものであり、その内容を新たに評価したり保証したりしたものではありません。) ・有効性が示唆されているのは、腎不全患者や血液透析患者に対して、高コレステロール値を下げる、貧血を改善する、食欲を高める、睡眠を改善する、体力を維持するという作用である。 ・体重減少にはおそらく効果がない。 ・特定保健用食品では、個別に製品ごとの有効性が評価されている。
参考文献
(PMID:11504055) Electrophoresis 2001 22: 2217-21. (PMID:12771974) Eur J Clin Nutr. 2003 May;57(5):721-5 (PMID:14605789) Eur J Clin Pharmacol. 2003 Dec;59(10):741-6. (PMID:10369493) Eur J Clin Nutr. 1999 May;53(5):379-81 (30) 「医薬品の範囲に関する基準」(別添2、別添3、一部改正について) (PMID:9704098) Biotechnol Annu Rev. 1996; 2:237-58. (2002019634) 日本呼吸器学会雑誌. 2001; 39(5):357-62 (1995082312) Bioscience,Biotechnology,and Biochemistry. 1993; 57(9):1439-44 (2004276913) 皮膚病診療. 2004; 26(8):1019-21 (2003197439) Journal of Nutritional Science and Vitaminology. 2002; 48(5): 371-378 (2006315050) 日本透析医学会雑誌.2006;39(6):1197-201 (2006130396) 日本呼吸器学会雑誌.2006;44(1):34-8 (2006047196) アレルギー.2005;54(12):1427-1429 (PMID:17925502) Ann Pharmacother. 2007 Nov;41(11):1912-4. (PMID:18254242) Arch Pharm Res. 2007 Dec;30(12):1550-7. (PMID:18460478) J Am Coll Nutr.2008 Feb;27(1):22-30. (PMID:18646097) Cochrane Database Syst Rev. 2008 Jul 16;(3):CD003892. (PMID:19923803) Ann Nutr Metab. 2009 Nov 13;55(4):368-374. (2008113904) てんかん研究;2007(25)3;178 (PMID:15201651) Am J Med Sci. 2004 Jun;327(6):356-7. (PMID:19778975) BMJ. 2009 Sep 24;339:b3751. doi: 10.1136/bmj.b3751. (PMID:22386817) Food Chem Toxicol. 2012 May;50(5):1171-7. (94) Natural Medicines (PMID:26877014) Carbohydr Polym. 2016 May 5;141:204-10. (32) 生化学辞典 第4版 東京化学同人生化学辞典 (20166972) 健康・栄養食品研究 2003; 6(2):39-50. (101) 日本食品新素材研究会誌 2004; 7(2):95-104. (102) 日本食品新素材研究会誌 2012; 15(2):64-73.